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どうしよう、と正直思った。
目の前の仁王君はじっと私を見下ろしている気がした。いつもより早い時間に家を出た私は本当に馬鹿だ、大馬鹿だ。
帰宅部の私が毎朝早く登校している理由は一つ、自分のクラスに飾ってある花の水を変えるため。家でたくさん育てている花を試しに教室に飾ってみたら皆に好評だったので続けているのだが、環境が変わると花の調子も変わるので毎朝温度や湿度を調節してどの花ならば長持ちするのか調べていたのだ。

そして、毎朝早く登校する私には少し困った事がある。同じクラスの仁王君と家が近いのかいつも同じ道で登校しているのだ、仁王君は朝練があるから早く登校しているんだと思うけれど。私は仁王君が苦手なのだ、嫌なことをされたとかではなく、雰囲気とか見た目とか少し怖い。結構授業にいないし。
そして今日、いつもより早く家を出たらいつもの曲がり道で見事にぶつかってしまった。仁王君と。

「……」
「…………」

沈黙が辛い。
ごめんなさいを言うタイミングを完全に逃して一人で焦っている私の横を、仁王君が通りすぎた。何も言われない、とほっとしている私をよそに仁王君は振り返って言う、

「なんじゃ、学校行かんのか?」
「…………行きます」

この日初めて私は仁王君の横に並んで登校した。
隣を揺れる銀髪がちらついて落ち着かない、案外ゆっくり歩いている仁王君は私の事など気にしていない様子。そりゃそうだよね、テニス部としても目立っている仁王君を私が知っていてもおかしくないけど仁王君が私を知ってるなんてないよね。ただのクラスメイトだし。

「お前さん、いつも早いのう」
「え、そうかな仁王君も早い、よね?」
「俺は朝練ナリ」
「……花の水、替えたくて」
「ああ、あの花瓶はお前さんの仕業だったんか」
「仕業って……。皆喜んでくれたから、続けたくて」

いつの間にか私、仁王君と普通に話している。
ハッとして仁王君を見ればその目は優しげに細められていた。
初めてちゃんと目を合わせたかもしれない、
なんか、恥ずかしい。

「花の種類はくわしくないが、今飾られてる花は好きじゃな」
「え、……ほんと?」
「…………プリっ」
「(プリっ!?)」

私も好きなんだよ、あの花。
仁王君の意外な1面、知れて何だか嬉しいと思うなんて私変なのかな。
苦手だと思ってたのに、話してみたらイメージとは全然違って、むしろもう少し話したいなんて思っちゃって。

「あ、あの!」
「ん?」
「また、あの花持ってくるから…そしたらまた一緒に登校しませんか、……飾る前に、見せるよ」

また足並み揃えて登校したいと思うから。
どうか、あなたも少しで良いからそう思っていてほしくて。不安から目をそらしていると仁王君は言ってくれた。

「そうじゃの、明日またあの角で待ってるぜよ」
「あ、ありがとう」

ここから始まる第一歩。
それは君を好きになるまでのカウントダウンだと、この頃の私はまだ知らない。

(何か仁王先輩機嫌良いっすねー)
(気のせいじゃ)
(えー?そーっすかね?)
(あ、柳生)
(何でしょう)
(花の種類を知りたいんじゃが……)
((絶対何かあったよな))