「高杉さん!」
「……」
たまに、こいつを犬だと見間違いそうになる。
俺の姿を見ると嬉しそうに駆け寄るところや頭を撫でれば顔をほころばせるところ、似ているところを挙げ出したらきりがない。
今もこれでもかと言うぐらい頬を緩ませて俺の着物の端を掴んでいるから、とりあえず頬をつねっておいた。
「んむ」
「…………アホ面だな」
「ひどくないですか」
ムッとした表情も全く怖くもない。
初めて会った日よりも幼くなっているように見えるのは、表情が豊かになったからか。くるくる回るその表情を見るのは嫌ではない、が……
「高杉さん」
「あ?」
「えへへ」
「……気持ち悪ィ」
少しめんどくせぇ。
しばらくなまえは俺の傍で大人しくしていたが、ふと何かを思い出したのかまた俺の着物の端を掴んだ。
「……?」
「あ、の……」
何かを言おうとするがなかなか言葉が出でこない、何を言おうとしているのかとりあえず待ってはみるが、口をモゴモゴさせるだけで何も言わない。
少し、いやかなりイラッとしたからまた頬をつねる。
「んむ」
「言いてぇ事があるならさっさと言え」
「……わ、たし」
「……」
「高杉、さんが……」
「………………」
「嫌いです……!!」
…………。
……………………。
とりあえず、また頬をつねる。
加減なんてせずに取れる勢いでぎりぎりと引っ張れば「ごめんなひゃいごめんなひゃい!」と涙目で訴えられたから手を離してやった。赤くなった頬をさするなまえの髪を一房引っ張って引き寄せて動くことが出来ないように後頭部と腰をガッチリ固定する。近くなった距離に目を泳がせて焦るこいつを見ると、自然と口角が上がった。
「いきなり何のつもりだ」
「ち、ちが、あの、」
「……嫌い、か?」
「河上さんが!!」
「…………は?」
万斉?
思いもよらない名前に、なまえを固定していた手が緩み、その隙に離れようとするなまえをもう一度引っ張る。
するともう観念したのか俺の胸元に顔を押し付けるとポツポツと語りだした。
「高杉、さんがあんまり構ってくれないですって言ったら……引っ付くのも良いけどたまには冷たくするのはどうだろうかって、…言ってた、ので……」
「…………」
「冷たくって、どうすれば良いのかわからなかったので……とりあえず真逆の事を言えば良いかなって…」
「真逆……か」
そんなもん、俺を好きだって言ってるのと同じだろうが。焦りすぎて墓穴掘った事に気付いていないなまえの手を掴んで俺から引っぺがし顔をまじまじと見る。あーとかうーとか唸っていたが勘弁したのか顔を真っ赤にして大人しくなった、
「てめぇは俺が好きでも何でもねぇ奴が傍にいるのを許すような男だと思うか?」
「…………え」
傍にいるのを許している時点で、こんなところまで連れてきた時点で、俺がこいつに冷たいなんて事はあり得ねぇ。それぐらい、分かれよな。
「でも、高杉さんって……私の事、好きって…言ってくれたこと、ありましたっけ…………?」
「言ってねぇし言わねぇ」
「……ですよね」
「…言葉なんざ安っぽいモンで満足すんのか?」
「へ?」
「なんなら、てめぇの体に分からせてやろうか?どれだけ俺に甘やかされてるか」
つ、と白い首を指でなぞるようにして撫でる。その跡を唇でなぞるようにしていけば肩を震わせて「いいです……!」と首を横に振った。
しかしそんな抵抗でやめてやるほど俺は優しくはない。なまえの両手を片手でまとめて顎を掴み唇を合わせる、執拗に舌を追いかけてわざと音をたてるようにして絡ませてやった。
「っ、ん……!」
「…………これ以上は、また今度だが」
酸欠で潤んでいる目尻を指で撫でて、真っ黒な瞳を覗きこむ。
「んな可愛くねぇ事言う口は塞がねぇとな」
好きなだけ"構って"やるよ。
お前は何も言えねぇがな。
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