ピンチ

夜20時。
仕事を終え、救護室を閉めて自室に戻ろうとした時。

ケータイの着信。
こんな時間帯に電話が鳴る事はあまりないのだが、ディスプレイを見てみると『近藤局長』の文字。
電話に急いで出ると


「す...ま..ない。助け..て...」


今にも消えそうな局長の声。
電話越しからでも今局長が危ない事が分かる。


「今どこですか??」

「スナック....すま...いる..,前.....」


ガチャという音と共に電話は切れた。
急いで居間の方に向かい、土方副長と沖田隊長を捕まえる。


「ど、どうしたんだ華血相変えやがって」

「なんかあったんですかィ?」

「近藤局長が....近藤局長が瀕死の重体だと思われます」

「なに!?」

「場所は、わかりやすかィ?」


土方副長の顔と沖田隊長の顔が引き締まる。


「スナック、すまいるという場所みたいなのですが」


場所を伝えると、テレビを付けだしゴロゴロしだす2人。
さ、さっきまでのシリアスはどうしたの!!??


「な、なにしてるんですか!!早く助けに行かないと!!」

「大丈夫だ。近藤さんは今、局長じゃなく愛の狩人だから」

「何訳わかんない事言ってるんですか土方副長!!」

「とりあえず、大丈夫でさァ。華さんもテレビ見ながらゆっくりしましょうや」


2人が動いてくれないので、私だけでもと思いスナックすまいる前まで急いだ。

急いだのはいいものの、スナックすまいるがどこにあるのか分からず、スナック慣れしてそうな雰囲気の銀パーのお兄さんに道を尋ねた。


「すみません!スナックすまいるって知りませんか?」

「すまいる?あぁ...お妙んトコかぁ」

「分かるんですか?教えてもらっていいですか!?」

「...君、面接かなんか?白衣って確かにそそられるもんはあるけど、パンツルックてのはどーよ。やっぱここは、ミニスカ、ガーター、聴診器でしょ。そんな事じゃあ、面接落ちるよ」

「面接じゃねーよ!!いいから、場所教えて下さい!!」

「え?面接じゃねーのに白衣なんて着てんの?趣味?趣味なの?」

「私は医者だぁぁぁぁあぁ!!!」

「あべしっっ!!!」


使えない銀パーを殴り、すまいるを探すため急いだ。

歌舞伎町の中はネオンだらけで、似たような店ばっかり。
キョロキョロしていると人だまりを発見した。そしてスナックすまいるの看板。
人だまりの中心を見ると、顔がボコボコに腫れ上がった近藤局長。


「局長ーー!!!!!!!!!!」


急いで駆け寄って脈をとる。脈はあるようだ。


「華....さ..ん...」

「喋っちゃダメ。傷にさわります」

「オレはもう....ダメ...か...もしれ...ない」

「お気を確かに!!誰にやられたんですか!?」

「最後....死ぬ...時は....お妙....さん....膝枕で....死に....た..い」

「お妙さんですね!!わたし、探してきます」


お妙なる人物を探そうとした瞬間。
目の前には女の人が笑顔で立っていた。


「あらあら近藤さん。こんな所で寝てたら営業妨害ですよ。消えろゴリラがぁぁあぁぁあ!!!!!!!!!!」

「やめてください!!局長が星になってしまいます!!!」


容赦なく局長を踏みつける女性。
まさか、この人が....


「お....だぁ....え...さん」

「やめてください!このままじゃ、本当に死んでしまいます!!」


必死にお妙さんとやらに問いかけるが聞いてくれない。


「あらあら近藤さん、こんなに綺麗な彼女が出来たなら、もうここに来る必要ないじゃないですか」

「彼女じゃありません。こんなゴリラの彼女になるくらいならこの命達ます」

「あの...華さん...言葉の暴力で死にそうなんですが」

「とりあえず、このままじゃ局長が危ないので、その足を退けて下さい」

「いや...華さんも踏んでますからね」

「お妙ちゃん、そのくらいにしたらどうだい?近藤さんはいい常連さんだし、女の子足りてないから早く戻って来て欲いんだけど」


声のする方を見ると、タモさんのようでタモさんじゃないグラサンが出て来た。


「店長、そんな甘い事ばかり言ってるから、このゴリラが付け上がるんですよ」

「君...仮にもお客さんに...酷いね」

「それに、女の子が足りてないのも店長の力不足なんじゃないんですか?」

「ねぇ、泣いていい?泣いていい?」


なんか、よくわからないが店長とやらかわいそうにと同情した瞬間


「君...いーねー。白衣着て面接?むしろ、面接しとこう!!」


さっきの銀パーの件もあり、面接の言葉にイラッとする。


「面接じゃありません。白衣は、コスプレでなく医者だからです」

「お医者さん!ますますいーよ!!うちでヘルプ頼めないかい?」

「無理です」

「いや〜うちは経験なくても全然大丈夫だよー。白衣うりにしていこう!!売っていこう!!ヤッてこう!!!」

「ヤるの字が危ないんですが。ありえないんですが」

「あら〜。貴方みたいな子が入ってくれたら助かるわ。私のヘルプで」

「鼻っからヘルプ扱いも腹たちますね」

「華さん、どうだい?お妙さんの為に頑張って仕事してみないか?」

「なんで、さっきまで瀕死だった人が立ち上がれてるんです!?」

「いやー。なに、お妙さんの顔見てたら元気が出て来たよー!!」

「近藤さん、こちらの方紹介して下さいよ。働いてくれたらお勘定サービスしときますよ」

「あらー。何を言っちゃってるんですか店長。殺しますよ」

「もう殺されかかってるんですが...」


タモさん店長の顔を壁にめり込ませるお妙さん。こんな乱暴なキャバ嬢始めて見たよ。


「華さん。オレ達真選組は困ってる人を見捨てたらいけないと思んだ。お妙さんも困ってる事だし。働いては貰えないだろうか」

「帰ります」


スタスタと屯所の方へと歩くと足にしがみついて来る近藤局長。


「待って!!待って!!お願いだからー!!困ってる人見捨てたら真選組の評判も悪くなるしさー!!勘定も安くなるしー!!」

「アンタ!!勘定目的でしょう!!??」

「お願いお願い華さーん」


涙と鼻水で顔がいつも以上に気持ち悪い近藤局長。
このまま足にしがみついておかれるよりキャバ嬢した方がいいのでは?
という思考にまでなってしまうのが怖い。


「分かりました。やりますが、明日は非番もらいますよ?」

「ありがと!!ありがとう華さぁーん!!」



(真選組局長がこんなのでいいのか心配になってきた)

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