03
にらみ合いながら一歩も動かない二人は注目の的だった。しかし、半径2メートルほど離れてはいるが(何が飛んでくるか分からないためだろう)。
そこに、一人の男が顔を出した。ファー付きのコートを着た女モテしそうな…って、何を言ってる俺。
「やあ、奇遇だねぇ…シズちゃん。」
「手前、臨也ァアア!」
臨也と呼ばれた男が、顔を出した瞬間、静雄はキレた。この状況に思わずルキフィスは呆気に取られた。
臨也は、ルキフィスを盾にしていたからだ。
「は?」と呟くが遅し。静雄は近くにあった自動販売機を持ち上げていた。
「ちょ、はぁ!?」
この状況に、流石の俺でも絶句するしかなかった。そして、思いっきり投げられた自動販売機はルキフィスめがけて一直線に飛んできた。
「チッ!」
「え、ちょっ!?」
舌打ちをし、臨也を担げば思いっきり反対方面へと投げ飛ばし、ルキフィスは両手を叩いた。
パンッ
その瞬間、自動販売機はルキフィスの目の前で氷付けになって存在していた。
ルキフィスがとっさに取った行動は臨也を安全地帯まで投げ飛ばし、さらに空気中の水分を練成し氷のオブジェを作り上げていた。
「手前! 邪魔するんじゃねぇ!」
「うるせぇ! 自動販売機を投げ飛ばす馬鹿が何処にいやがる! 俺にまで被害が及ぶとこだったじゃねぇか!」
ガッと鈍い音とともに左腕をつかまれる。ギリギリと骨がきしむ音がするが気にしていなかった。目の前にいる静雄に腹が立っていたからだった。
「手前には関係ねぇだろうが!」
「いい加減に…しろ! テメェは人様の迷惑を考えたことねぇのかよ!」
ついには、ルキフィスもキレて、静雄に殴りかかった。片手がつかまれて動かせない以上、左腕で殴るしかない。殴られた静雄は少し顔をしかめるも、何事もなかったかのようにしていた。
「あぁ!? んなこと知るかよ! 俺はノミ蟲を殺さねぇといけねぇんだよ!」
ゴキッ
「いっ!?」
骨の砕けるような、音がした。ルキフィスは一瞬、何が起こったのかわからなかった。
が、この腕の痛みからするとどうやら、腕を折られたようだ…って、どんだけ馬鹿力なんだよ。
「なっ!?」
そう言って、急いでルキフィスの腕を離す静雄に一睨みしてからこう告げた。
「これで満足か? 怒りも冷めただろ? 畜生、痛ェんだよ。」
そこで、サイレンの音が聞こえ始めた。
ん? サイレン? って、警察じゃねぇか!
「っ、やべっ! ほら、逃げんぞッ!」
今度は、ルキフィスが静雄の腕をつかみその場から逃げ出した。というか、警察呼ぶの遅すぎじゃね? とか内心思ったことは内緒だ。
「お、おい! 腕、大丈夫かよ!」
「あぁ!? そんなこと言ってる場合じゃねぇだろうが、警察に捕まりたくねぇだろ!」
とまぁ、走って走って気がついたら公園についていた。そこのベンチに腰を掛け、静雄に手招きする。
「こっち来いよ。」
「あのよ…、その…悪かったな。」
「は?」
一瞬、何を言ったのか分からなかった。しかし、それが謝罪だということに気づくまで後5秒。
そして、ルキフィスの腕を見て焦る静雄は…2分後だろう。
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「ちょ、手前大丈夫か!? 腕が紫色になってんじゃねぇか!」
「あぁ、痛くねぇし…大丈夫だぜ?」
けろっと答えてしまうルキフィスに静雄は落胆した。そしてから、「来い」と一言告げればルキフィスの腕をつかみ歩き出した。
「は、ちょ…待て。何処行くつもりだ!」
「医者ン所だ。ほら、さっさとついて来い。…っとー、名前なんだ?」
「医者? 俺は…ルキフィス・エルリックだ。えーと、お前は確か平和島静雄だったよな?」
以前…というか、前に相手にあったときに言っていた名前だったはずだ。
これで、間違って覚えていたら恥ずかしいよな。
「つか、俺…お前のこと見直したわ。優しい奴じゃねぇか。馬鹿力だけどな。」
「なっ! 馬鹿力は余計だ!」
そう、冗談を交えつつ会話するのは久しぶりで、凄く楽しかったような気がする。
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