「うぅ…寒い…」

やっぱり、冬は苦手だ。自分が、夏生まれだからだろうか、寒さに弱いのは。だからと言って、暑さには強いのかと聞かれたらそれも答えはNOだ。春や秋ぐらいの温度が丁度良くて好きだ。

白い息は見るだけでも寒くなる。首元にあるマフラーを少し上げ鼻まで埋める。これで少しは暖かいのだが、頬は風に触れ冷たくなっているはずだ。


「手袋、してくれば良かったかなぁ…」

少し後悔しながら呟いた。寒空の下、急に呼び出された千乃は待ち合わせに指定された公園でピアーズを待っていた。嬉しくて、家を早めに出たのが間違いだったのか、予定時刻よりも30分早く来てしまったのだ。

ジャケットの袖を引っ張り所謂萌え袖とやらにすれば冷えた指をこすり合わせ暖を取る。こんな寒い日は温かい日本茶が飲みたくなる。そう考えてちょっと日本食が懐かしくなったのは内緒だ。


「千乃!」

約束の時間までもう少し、といった所だった。名前を呼ばれ振り向くと、そこには待ちに待ったピアーズがいた。ピアーズの顔を見れたことに嬉しさを隠しきれずに駆け寄り笑みを浮かべる。

「ピアーズ! 急に呼び出して、どうしたの?」
「見せたいものがあるんだ」
「見せたいものって?」
「すぐ近くだ、ほら行くぞ……って、冷たっ」

ピアーズが見せたいものとは何だろうと千乃は首を傾げた。そういって千乃の手を取る。ピアーズは千乃の手の冷たさに驚いたが、すぐに両手で千乃の手を包み込み暖める。ピアーズの手は大きく、ちょっとごつごつしていて男らしい手だ。そして、何より暖かい。


「ちょっと来るのが遅かったか?」
「そんなことないよ! 私も、さっき来たところだもん」

申し訳なさそうにするピアーズに千乃は首を振って否定した。嘘をついてしまったが、まぁ良いだろう。だって、ピアーズに会えた、それだけで寒さなんて吹き飛んでしまうのだから。


彼の、一つ一つの動作が愛おしい。でも、口には出せそうにないや。だって、口に出してしまったら恥ずかしくて死ねる。

ピアーズの傍にいるだけで、心臓がドクドクと鼓動を打ち、ぽかぽかと暖かくなってくるような気になる。というか、実際体温は上昇していると思う。


「ピアーズ、もう大丈夫だよ」
「そうか? じゃあ、行くか」

そう言って、手を離せばそのまま手を繋ぐ。所謂恋人繋ぎというやつで…千乃は嬉しさ反面恥ずかしさで顔が赤くなる。でも、ピアーズには見せない。どうした? と聞いてくるピアーズにはなんでもないと答える。

ピアーズは千乃の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。手に、顔に熱が集まる。もっと、こんな時間が増えればいい、そう思った。


あぁ、もう! すき、すき、だいすき!


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