なんか、変な奴を拾ってしまった。
拾った切欠は、ただそいつが家の前に落ちて…いや、倒れていたから拾ったのだが、そいつはかなり癖のある奴だった。格好からして変だったのだが、何というか拾ってしまった。

家の地下にある、工房兼研究室で、なまえとそいつは向かい合って話していた。頬杖をつきながらにやりと笑みを浮かべているそいつになまえは若干呆れながらも答えていた。

「へぇ、錬金術師だったんだ」

「…まぁね」

そいつ――エンヴィーの問いに答える。なまえは錬金術師だ。錬金術師と言っても、国家錬金術師の資格を持っているわけではない。どこらにでもいる普通の錬金術師だとなまえは答える。

しかし、なまえの専攻は生体練成だ。これは、錬金術でもかなりの高度な分類とされていて、医学の知識などがなければ難しい。人体練成を含むのではないか、と問われることもあるが、あくまで人を“治す”ためだ。禁忌には触れていない。ジャンルで分けるとすれば、医療錬金術の部類に入るはずだ。そのためなまえの研究部屋には、古今東西から集められた医学書や他の医療錬金術師たちの公開しているレポートなどが大量に置かれていた。壁の本棚では足りないのか、床にまで積み重ねられている。なまえなりに整頓はしてあるようだが、傍から見ると散らかっているようにしか見えないのが難点だ。

話は戻るが、エンヴィーが血まみれで家の前に落ちていたときは肝が冷えた。急いで、家の中へ運び込み治療を施そうと思ったのだが傷口はすぐに塞がっていき、唖然とした。何というか、色々ありすぎて頭がオーバーヒートしそうになったことは覚えている。
それと、気絶していたと思われるエンヴィーが実は起きていて、開口一番殺されそうになったことも忘れられない記憶だ。


「んで、何でなまえは国家錬金術師にならないの?」

「何でって言われてもなぁ……何かに縛られるのが嫌だったから? 俺は自由に研究がしたいだけなんだ。あー…でも、まだ見れてない文献とかは見たいかもな」

何故、国家錬金術師になれないのか。なまえは、様々な人から問われることが多かった。なまえであれば、苦をせずとも資格は取れるだろう。しかし、本人が嫌がっているのだから仕方ない。


「ふーん。まぁ、いいや」

「俺は、お前の存在のほうが気になるがな。何でそんなに早くに傷が治るんだ? 傷跡も残ることなく、あの速度で回復するなんて凄く興味深い。生体練成を使ったわけじゃあるまいし、大体お前は何者なんだ? 俺の家の前に落ちてたし……まぁ、そんなことはどうでもいいか。とりあえず、解剖させろ」


「ちょっ、ちょっと待って! 可笑しくない? マシンガントークすぎて、途中から聞き取れなかったんだけど!? っていうか、解剖なんてさせるわけないでしょ」

ぶつぶつと何かを呟き始めたなまえにエンヴィーは引きながらも、最後の言葉だけはしっかりと聞き取れたらしくすぐさま拒否をし、なまえは唇を尖らせながらしぶしぶといった感じで諦めた……ように見えただけだった。

エンヴィーが視線を逸らした、その瞬間を狙ってなまえはエンヴィーに向かって飛び掛った。エンヴィーは一瞬だが驚いた顔をするも、そのまま飛び掛ってきたなまえの腕を掴み逆に放り投げた。年中、研究ばかりしていてあまり部屋から出ないなまえが勝てるはずもなかった。

なまえは投げ飛ばされ長い時間、空中にいるような気になっていた。あ、これは背中から落ちるな。と呑気に思っていればどっしゃあああんと凄い音を立てながらリなまえは落ちた。積まれていた本やレポートの用紙をぶちまけながら、なまえは痛みに顔を歪めていた。


「いってぇ……」


「アンタ、馬鹿じゃないの?」

床に寝転がり痛みで眉をしかめているなまえの顔を覗き込むようにエンヴィーは呆れながらなまえの胸を踏みつけた。踏みつけられた衝撃で肺から空気が抜け、息が詰まる。かはっ、という音が自分の口から聞こえた。なまえは男に踏まれて喜ぶ趣味は持っていない。


「アンタも人が良すぎるよね。家の前で血塗れで倒れてる人なんか放っておけば巻き込まれずにすんだのに。今ここで殺しちゃうのは流石に悪いから、アンタも人柱の候補として伝えておいてやるよ」

「は…? 何、言ってるかさっぱり分かんないんだが」

にやりと、これまた悪い顔で笑みを浮かべているエンヴィーに、なまえはもしかしてまずいことをしてしまったんじゃないかと急激に焦っていた。やばい。というか、エンヴィーの言葉の中に不吉な単語が混じっていたようにも思える。


「僕さぁ、なまえのことを気に入ったから、そう簡単に殺されないようにしてね」

「お、おい! ちょっと、待っ!?」

声を出したときだった。頭に衝撃が加わり急激に意識が朦朧としていった。意識が落ちる手前、エンヴィーが凄くいい笑顔だったのをなまえは見逃さなかった。

なまえはまだ知らなかった。
まさか、こんな大騒動に巻き込まれる羽目になることを。
エンヴィーに気に入られ何度も殺されそうになることを。ついでに、押し倒されてナニをされそうにることとも。
まだ、なまえは知らない。