学校帰り、新都へ用足しに行ったついでに、港に寄ることにした。天気も良く、たまに海を見るのも良いかと思っての行動だった。

海は穏やかで、たまに吹く潮風が心地よく感じる。なまえはぐぐ、と背伸びをすれば、見知った背中の人物に声をかけることにした。釣りをしているアロハシャツを着た男だ。


「こんにちは、ランサー。魚釣れてます?」
「おー、なまえじゃねぇか。微妙だな」

くわえタバコをして釣りに没頭している姿は、とてもじゃないが英霊とは思えない。英霊だとしても……つ、釣りの英霊だろうか。そんなランサーはちょっと嫌だ。横に置いてあるバケツを見ると、そこには魚が1匹。確かに、微妙だ。

「相変わらずギルガメッシュの奴にこき使われてんのか?」
「あはは…、最近は大分我侭も減りましたけどね…」

ランサーとは、苦労人仲間と言ったところだろうか。ギルガメッシュがなまえのサーヴァントになる前は一緒の所にいたらしく、ギルガメッシュには散々迷惑を掛けられたそうだ。それは、何と言うか、ご愁傷様としか言えない。

やはり、苦労人同士だと気が合うのか話は弾んでいった。と、言っても大半はギルガメッシュに対する愚痴なのだが。

「ギルさんも、もう少し優しく言ってくれると良いんですけどねー…」
「そりゃ、無理だろ。子ギルならまだしも、あいつが優しく言うわけがねぇ」

ひらひらと手を振って無理だと答えるランサーになまえは首を傾げた。聞き覚えのない単語が出たからだ。子ギルって何だろうか…。

「ランサー、子ギルって?」
「ん? あー、見たことねぇのか。子ギルっつーのは…」

急にランサーが言葉を止めた。その視線は、なまえの後ろに向いている。なまえも釣られるように後ろを振り向けば、いつにもまして不機嫌なギルガメッシュがいた。


「なまえ、帰るぞ」
「はい…」

猫ように首根っこをつかまれ、いそいそと退散する。ランサーには視線だけで「ごめん」と謝る。ランサーは苦笑しながら、見送ってくれた。


「あ、あのー…ギルさん」
「なんだ」

声のトーンは相変わらず低い。やばい、かなりお怒りになってらっしゃる。
どうしようか考えていれば、いきなり抱きつかれた。

「!?」

いきなりのことに頭が追いつかず、石のように固まるなまえの耳元で、ギルガメッシュは囁く。

「お前は、この英雄王のマスターなのだぞ。もう少し、自覚を持て」

耳にかかる吐息の所為なのか、抱きつかれているからなのかは分からないがなまえの顔は真っ赤になっていた。そりゃ、仕方ないと思う。でも、ちょっと待ってほしい。何故、こんなことになっているのか教えてほしい。

「あのような雑種のところなど行くな。我の処にいれば良い」

腰に回されている手に力が入っている。その視線は真剣で目を逸らせなくなる。


「ふ、まぁ…良い。今日の晩飯は和食が食べたい。分かったな?」

口元に笑みを浮かべれば、なまえを開放する。雰囲気はいつもどおりのギルガメッシュに戻ったようだ。そして、晩御飯のメニューを決められた。色々と思考は追いつかないが、一つだけ言えることがある。

「今日は、パスタなんですけど…」
「何!?」

仕方ないので、間を取って和風パスタになった。和食は明日作ってあげるから。