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「え、母が危篤?」
「今朝、連絡があった。で、どうするかね? 今、君は療養中だから行ってきても構わんが」

上司の言葉に耳を疑った。母が危篤というのはどういうことなんだ。上司の言葉がぐるぐると頭を巡って離れない。俺は、今どんな顔をしているのだろうか。治りかけの傷がずきりと痛んだ気がした。



「行きます、休みを取らせてください」
「分かった。何かあったらこちらから連絡する。通信機は手放すなよ」
「了解です」

少しの沈黙の後、俺はそう答えていた。BSAAに入ってからろくに両親と顔を合わせていない。後悔ばかりが心を支配していた。柄にもなく、焦っていた。どうにも出来ないのが歯痒い。

俺は、自宅に向かい簡単に荷物をキャリーケースに纏め上げれば飛行機に乗るために空港に向かった。此処からトールオークスまでは飛行機に乗り、最寄の空港で降りたら電車で1時間程度だ。その後は地下鉄に乗ってしまえば実家まですぐだ。

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久しぶりの故郷はあまり変わってはいなかった。町並みも、店も昔とあまり変わってはいないようだ。
地下鉄に乗り込む。小さい街の癖に、地下鉄が通ってるのはどういうことなのか、俺にもよく分からん。観光出来るスポットもあまりなさそうなんだがな…。

地下鉄に乗り込んだ。キャリーケースを自分の足元に置けばやっと一息つけた気がした。慌てていたからか、怪我をしていたのを忘れていた。治りかけといっても、運動は推奨されていない。医者には怒られるか、呆れられるだろう。



電車が駅のホームに入ったときだった。いつもの様子と違うのに気づいた。ホームには、人が居なかった。人の少なかった車内もざわめいている。

「落ち着いてください、ただいま原因を調査中です。もうしばらくお待ち下さい」

何かあったのだろうか?

レックスが首を傾げたときだった。後方車両から悲鳴や怒声が聞こえた。悲鳴は大きくなり、車内は一瞬でパニックに陥った。

「落ち着け!」

レックスが声を荒げるもパニックに陥った人々はそう簡単に聞いちゃくれない。前方の車両へ逃げていく。

その時だった、ガンッと大きな音が貫通扉から鳴り響く。残った人々は動きを止め扉を方を向いていた。レックスも例外ではなかった。

ドアから現れたのは、血まみれの男性だった。血に染まった腕を押さえながら助けを求めていた。レックスは駆け寄り傷の具合を見る。そこまでの傷ではないが、傷口が妙だ。そう、人に噛まれたような…。



「た、助けてくれ…い、いきなり襲われて…」
「どういうことだ?」

レックスが男性に尋ねる。まさかとは思うが、バイオテロが起きたんじゃないよな…。
嫌な考えが脳裏を過ぎる。

「青い、霧のようなものが現れて…それで、その人がゾンビのように…襲い掛かってきたんだ」
「バイオテロか…?」
「分からない…」

嫌な考えが当たってしまった。青い霧というのはウイルスだろうと推測する。しかし、撒かれたウイルスが何か分からない以上列車は隔離したほうがよさそうだが…。
それと、T-ウイルスだった場合、この男性が死んだ後、ゾンビとして蘇る可能性もある。だから、この男性を見張っていたいが…。

「ちょっと! アナタ、どういうつもり? ゾンビだって!?」
「落ち着け。良いか、今この電車はバイオテロに巻き込まれた可能性がある。後ろの車両がどうなってるかわからねぇが、危険なことに変わりはない」
「偉そうに、じゃあどうすれば良いっての!?」
「ひとまず、前方車両に避難する。良いか、一人ずつ行けよ。パニックになって、将棋倒しになったりでもしたら死ぬぞ。幸い、前方車両には悲鳴は聞こえなった。つーことは、まだそっちは安全かも知れない。むやみに車両の外にでるよりは安全だろうな」
「あなた…何者?」
「BSAAだ。つっても、療養中だがな」

そう色々と考えていれば呼びかけられ、一度思考するのをやめた。突っかかってきたのは少し太り目の女性だった。怪我をしている以上、無理は出来ない。いや、いざとなったら怪我をしていようがいまいが関係なくやらなくちゃなんねぇな。

「とにかく、全員、前方車両に行ってくれ。俺は、後方車両に確認に行く。車掌にも伝えといてくれ。それと…、何でも良いから武器になりそうなものはないか? あと、もし前方車両にゾンビがいた場合、倒せる奴は?」

いくらBSAAだって、一歩戦線から離脱すれば装備も何もない。それに、今回は飛行機にも乗ったから銃なんて持っていない。ナイフだってそうだ。

「なら、俺のバットを使ってくれ。ちょうど、新調しようと思ってたところなんだ。気にせず、使ってくれ」
「ありがとう」

そういって男性が出したのは金属製のバットだった。服装から察すると、草野球帰りなのかもしれない。男性からバットを受け取ればバットの握りしめる。

「お、俺がやってやる! ぞ、ゾンビなんか俺がやっつけてやる!」

勢いよく声を上げたのは今時風の若者だ。声は少し上ずっているものの意気込みだけはありそうだ。レックスは若者に任すのはちょっと頼りないと感じたが、今は贅沢も言ってられない。

 

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