5.おやすみ、また明日
隊長――クリスを脱出ポッドに乗せ、送り出すも途中でハオスに襲撃されていた。クリスを助けるべく、最後の電撃を放った。これで、ハオスは死んでクリスは助かるだろう。俺は壁に背を預け座り込んだ。すでに、助からないと確信していた。C−ウイルスに侵され、腕も変異してしまった。こんな姿じゃ、ハルには会えそうにない。
約束……やぶっちまったな。
最期に、ハルの声が聞きたい。虚ろな意識で、電話を取り出した。水に濡れたり、衝撃が加えられたりしていたが無事なようだ。画面には、ハルと俺の写真が映っている。画面に映っているハルを指で撫でながら慣れた手つきでハルへ電話をかけた。
1回、2回とコールしている。この場所も、長くは持たないだろう。後、2回コールして出なかったら諦めよう。そう、ピアーズが思っていたときだった。ぷつりと言う音とともに、電話がつながった。
「もしもし?」
「ハル、俺だ。少しだけ時間があるか? 寝る前に、少し声を聞きたかったんだ」
少しだけ、声が聞けた。それだけ、俺は口元が緩んでいくのが分かった。しかし、身体に走る痛みは耐えるのも辛い。歯を食いしばって、痛みに耐えた。ハルに、悟らせては駄目だと。
「凄い音してるけど、大丈夫なの?」
「ん? あぁ、すぐ近くで工事してるみたいで…煩いけど問題ないさ」
また、嘘を吐いてしまった。ずるずると身体を引きずりながら、瓦礫が落ちてこない場所を探した。しかし、爆発している中、安全な場所を探すほうが困難だった。そろそろ、潮時だな。
「ハル、悪いが眠いんだ。今回の作戦はハードだったからな。少し休んだら、また連絡するよ」
「お疲れ様、だね。ピアーズの声が聞こえてよかった」
身体も、限界が近いかも知れない。次第に、虚ろになっていく意識を何とか保ちながらハルに告げた。
「おやすみ、また明日。ハル、愛してる」
「うん、またね。ピアーズ…私も愛してるよ」
最後に、ハルに会いたかったな。会えなくて、ごめん。電話を切れば、俺はそのまま目を閉じた。ハルのことを思いながら、意識は深淵へと沈んでいった。
END