4.まだ、切りたくない


「大丈夫だよね? ちゃんと、帰ってくるよね!?」

ハルが不安そうな声で俺に問いかけた。電話越しでも、ハルが不安でいっぱいな顔をしているのが想像できた。


「当たり前だろ。ちゃんと帰ってくるさ、やっぱりあんたは心配性だな」

俺は、口元に笑みを浮かべながらなるべく優しい声で喋った。俺のことをいつも心配そうにしてくれるハルは優しい。本当に、俺なんかと付き合ってて良いのかと思ってしまうぐらいだ。

「絶対だよ!」
「あぁ。帰ったら、ハルが行きたがってたスイーツ店に行こうな」
「本当!? 楽しみにしてるね」

ハルが行きたがっていた店がある。俺の住んでいる家から歩いて10分ほどにある店で、雑誌に掲載されたりするほどのスイーツ店らしい。らしいというのは、俺はハルから聞いただけでよく知らないからだ。値段も比較的安価で若い女の子たちに人気の店だと聞いた。


それからハルとは他愛無い話をした。今日あったこととか、そんな感じの話だ。時間にすれば、10分ぐらいだが、俺には凄く短く感じた。もし、俺が死んだりしたら…。

ふと、そんな考えは頭を過ぎり、言葉が止まってしまった。無言になってしまった俺に、ハルは戸惑いながら俺の名前を呼んだ。

「ピアーズ?」
「本当は、今すぐ会いたいんだ」

俺の本心だった。今すぐ、ハルに会ってキスをしたい。会う時間も少なく、ハルには寂しい思いをさせているだろう。
でも、ハルを困らせちゃ駄目だ。俺は慌てて謝れば、時計を確認した。時差を考えれば、そろそろいい時間だろう。ハルのことを考えれば、そろそろ電話も切るべきだろう。

「悪い、さっきのは無しだ。っと、そろそろ眠いだろ?」
「わ、私だってピアーズに会いたい! 会って、ぎゅってして貰いたいよ! だから、無事に帰ってきて!」

いきなり、声を荒げ俺に会いたいと泣くハルに俺は吃驚しながらもゆっくりと宥めるように声を出した。

「え、ハル!? 泣くな、ちゃんと帰るから」

ハルには泣いて欲しくない。ちゃんと帰ると言ったものの、作戦は危険も多い。それは、ハルも十分承知しているはずだ。

「ひっく、約束だからね…?」

「勿論だ。だから、きょうはおやすみ」
「うん…、おやすみなさい」

ハルにちゃんと帰ると約束をしながら、寝なさいと促した。本当は、切りたくなかったがこれ以上話し込んでしまったら作戦に影響がでそうだ。しぶしぶ電話を切れば、ため息を吐いて空を見上げた。携帯電話に映るのはハルと俺の写真だ。何気なく撮った写真だが、気に入ったので待ち受けにしていた。
作戦は失敗できない。気持ちを入れ替えて臨まなければ駄目だ。成功させて、ハルに会いに行こう。


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