地下室の


地下室の日溜まり

秋田の冬は寒い。暖房をつけていても寒い。ドアの隙間から吹いてくる冷ややかな風、それのみで水が凍っちゃうんじゃないかな、そう思うくらいに寒い。今朝ニュースで、大した温度でもないのにぶるぶると震える都民をみて殺意を覚えた、軟弱者ども、秋田に来て修行しろ。先生の目を盗みみて、ぐるぐるとマフラーを巻き、赤くなった手をホッカイロになすりつけてみる。うーん、まだ寒い。こういう時は背筋伸ばすといいんだっけなぁ。

まあ、わたしがこんなに寒い理由は、秋田のせいだけではないのだけれど。

「いいかげん、元気だしなよ」
「アツシ……アツシ絶対に怒ってる……」

だめだ、もう再起不能かもしれない。わたしの隣の席に座る、この男、まさに今わたしがぶるぶる震える原因のキューティクルサラ男(友達談)は普段の「俺、帰国生だし、目元隠す妖艶でクールなやつだぜ」という雰囲気を完璧に失っていた。というか、サラ男がブツブツとネガティブなことをつぶやくたんびにわたしは心が寒い。ネガティブっていうかすっごい情けないこと言ってて泣ける。誰か助けて。

とりあえず、さっき急いで買ってきたココアのうち一つをサラ男の机に、もう一つはわたしの頬っぺたにあててみる。じんわりとした温度がほっぺたから広がっていく、温かい。

「まあこれでも飲んで温まりなさんな。アツシくんとやらだってそこまで気にしてないって」
「ああ……名前、ありがとう」
「正直さ、氷室が元気だしてくれないとこっちが寒くて困るわー」

ふう、小さく溜息をつけば、真っ白になって空気に溶けた。
むくりと机から起き上がって両手をココアであっためる氷室を横目で見る。あいかわらず、顔だけは無駄にいいためさまになってしまうのが苛立たしい。

そう、顔だけは、なのだ。
いや、強豪バスケットボール部レギュラー、成績もそれなりによいし優しさもあるし、女の子のあつかいもよくわかってる。そんな彼は、男としてかなり女性の理想に近いのかもしれない。だが。

そんなすばらしい彼は、どうやらわたしの前では今まで溜まった鬱憤を全て曝け出すらしい。他の人に相談するところなんて見たことない。はけ口はぜーんぶわたし、ひどいもんだ。そして最後にお手製の笑顔でお礼を言われる。わたしはその笑顔があんまり好きじゃないけれど、それだけで許そうと思えるわたしもわたしで相当のお人よしだ。

どうやら今日の彼のお悩みは、同じ部活のアツシくんとやらと、昼休みにあったミーティングの際に軽い口喧嘩をしてしまい、アツシくんが拗ねて口を聞いてくれなくなったことらしい(ちなみに喧嘩の原因は、アツシくんの持つ大量のお菓子を取り上げたのが始まりとか。小学生か)。

お互い謝れば済む話だというのに、どうやらアツシくんがそうとうキレているらしく、昼休み中は話かけさえもさせてくれなかったようで。高校生のすることなのだろうか、バスケ部って、男の子って謎。

ふぅ、頭の中の雑念を払うように少し息をつく。きらきらと白く溶ける息が気に入らない、寒い。でも今は、目の前のおとこが最優先だ。昼休みは長いようで、短い。こんなのに構ってる暇なんてない!!

「で、今回、氷室はどうしたいワケ」
「アツシと仲直りしたい。早く口を聞いて欲しい。俺の名前を言って欲しい」
「間髪いれずに答えやがった」

ギロリ、一つしか見えない綺麗な目に睨めつけられたので、あいむそーりー!!と下手な英語でとりつくろったらデコピンされた。ちくしょうさすがバスケ部レギュラー、デコピンもかなり痛い。

「もう、ごめんって」
「そういう風に人を茶化すのって、よくないとおもうよ」
「はいはい、でさ、氷室がお菓子をとりあげたのって、アツシくんのためを思ったわけでしょ、だったらそれを伝えればいいじゃん」

あ、それが無理なわけか。そう呟けば、氷室は小さく首肯して机にうな垂れた。体でかいからか机が軋む。

ていうか、お菓子取り上げられただけで拗ねるアツシくんもよくわからない。よほどお菓子にこだわりがあるのだろうか。氷室の話を聞くかぎりでは、ただ氷室に反発したいだけ、という風には見受けられないし……

「ツンデレか」
「Why?」
「ツンデレって言ったの!!!!恥ずかしいから言わせないでよバカ」

だってそうじゃん、絶対アツシくんは氷室のこと好きで、でも自分じゃ言えないからそうやってお菓子で気を引こうとしてるんだよ。そういった趣旨を伝えると、氷室は気持ち悪いくらいに頬を緩ませてにまにまと笑う。なんかコイツバカにしてないか、わたし間違ってたのかなぁ。あと、普段のスマートに笑う氷室は?エレガントな帰国子女は何処に。

なんだかその様子をみていると私が恥ずかしくなってきて、気を紛らわせるためにココアのプルタブを開けて一気に飲んだ。ぬるいし牛乳の膜は貼ってるしやけに甘ったるいし。そんな私をみた氷室は、またにまにま笑った。普段はクールで落ち着いた感じで笑うのに、今の笑顏は無邪気な子供、なんだかお日さまみたいでちょっと可愛い。

「そうやって笑った方がいいよ、氷室は」
「それは脈アリ、ってことでいいのかな」

いやいや、脈アリ、って一体なんの話だよ。意味わかんない。唐突に何を言い出すんだコイツは。頭大丈夫?「……は」そう呟けば、氷室はスッと目をそらしてココアをいっきに煽った。実はちょっと暑くなってきた、なんて言ってやるもんか。あーあー、寒いなあ。




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