いつかの逢瀬のあと……。
 おまえは、それを、ささやいた。
 いつだったろう。
 まだ、はじめのころだったか。
 おまえの息で耳が濡れて。……あつくて。

 ことばに、そんな意図はなかったろうと思う。……知っている。
 ただ、純なこころで言ってくれたのだと、わかっている。
 わかっている。
 おまえは、どこまでもまっすぐで。
 そんなおまえがすきなんだ。
……ほんとうだ、
 このこころに、うそは、ない……。
……でも、
 あぁ………。

 檻に入れと、わたしには、きこえた。
……あのときも、
 そのあとも……、
 幾度か。
 そういうとき……。わたしは、すこし、おまえがこわい。
……見えている景色がちがう。おまえと、わたしでは……。
 むかし……、
……子どものころ、父上たちに着せられる、女の服がこわかった。
 おんなじ怖さだ。
……わからないだろう。
 景色が、ちがうんだ。

──さびしい。


◆◆◆◆


 子どものころ、人間の両極には定められた道があると教えられた。
 この地に在って生を受けたすべてのものは、その道から外れることをゆるされない。うぶ声を上げる赤児が有したいちばん最初の刹那から、ひとは、ふたつに別れる。
 ふたつが従うそのさだめは、画然としてたがった。
──おとこがあり、おんながあり。
 陽ざしとなる極はかがやき、夜陰は翳る。光は強く、影はくらい場所に絡め取られて。
 めとり、めあわせられ……。
……殖やすものと、産むものと。
 日なたにいる方と。日かげにいる方と。

──かつて、逃げた。
 生まれた躰のさだめから。その日かげのさだめから……、にげた。
 外界の苛烈な陽射しも届かない、すずしく、ここちよく、どこよりも安全な──けれども、だからこそいつも暗い──、未来の居場所に、いえの壁につね守られたその場所に、紐で繋がれたみたく従順に、盲目に、ただしく、清く……、座って待つのはいやだった。
 逃れられない躰のさが・・から、正道の名を持つ檻から。……にげたかった。
──要らなかった。……つややかな絹の装束も、べに色を引いてあでやかにほほえむ口も。
 いっそ、こわいくらいだった。白い粉で整えられたかんばせも、蒸らした花から精留されるかぐわしい髪油の香りも。底が見えない昏さをもった、濃い黛青たいせいの色も。目元へすっと切ったみたく掃かれた孔雀石マラカイトの、引絞ったきゅう形、そのたわやかさも。……こんじきの腕輪、首環、貴石の色を象嵌された花蕾からいのような指とつめさき。なめらかで、やわらかく、まろやかな肌、そして躰……。
──真実、子どもごころにおびえを誘ったそれらはみんな、なまりの鎖に等しかった。
 その煌びやかな概念がもつ拘束は、近い将来たしかに迫り、だんだん肉を締め上げる。
 おさない日、未来のおのれを──その五体に美々しいかたちの装身具をぴったり嵌め込む女のすがたを──、思うたび、それは獄舎の内、枷によって四肢を失う囚人めしゅうどの運命を連想させた。
 いつだって、子どもの脳裏の底の方へは耳に聞いた景色が映る。思い描いたその場所は、いつか自分の行き着くだろう閉じた居場所と重なりあう。……うす暗くじめじめとした牢の内側。影の中でうごめく、みじめな罪人のすがた。鎖で繋いだ硬い枷を嵌め込まれている両脚の首……。想像は、いつだって陰惨だ。罪人のくるぶしの径にきつく嵌まった鉄の輪は、罪人が身動きするたびその生肌を傷つける。その足くびは日々与えられる摩擦によってうす皮がすり切れ、肉は損傷し、露出した弱い部分は動作のたびに抉られる。傷口にはろくな手当もなされない。それは、ぴったり接する金属の下で徐々に徐々に膿んでゆく。段々と濁った色に爛れてゆく。病毒によって侵蝕され、まだ健全な深くの肉さえ病んでゆく。罪人の足くびは、ぬるぬるとした膿にまみれる。……いつしか、鉄の下へは肉の合間に骨が見え、やがて黒ずみながら脱疽する。
──つまり、未来も、そうなのか。
 澱んだ色の空想は、いつだって、そのささやきに着地する。
 罪人と花嫁とはその名前がもつ性質の、いろんな部分で似ている気がした。……ふたつとも、狭いところに囲われている。自分の力で出て行くことのできないところに。
……そうして、永劫に縛られている。
 煌びやかに着付けられた少女の装い。かざり立てた鏡の向こうの地面には、連想の世界からあふれ出てくる暗い景色が見えていた。硝子の板に塗り挟まれた水銀が、なめらかな光を放つその鏡面を覗くたび、思い描いた景色の翳りはいっそう濃く深まってゆく。正道ということばの響きは、そのまま、足くびのぬるぬるとした鉄の輪に繋がった。
 それは、無知な子どもがただ闇雲に恐れるだけの、大げさな妄想でしかないと──。いま、果たして、この口でほんとうにそう言えるか。その怯えの実体は、なにもかも全て、根も葉も持たない虚構だと……。
……四方の壁に護られて、閉ざされたその中に与えられるうつくしいものはありのままにうつくしく、充足していると……。追い求める必要のない栄華より、そこは満ちていると。そこは決して欠けず、褪せず──、そこは閉じているがゆえに、いつだってやすらかに満ちていると……。
 あきらめ、受け容れろと。
 かつてのおのれに、言ってやれるか。
……できやしない。
 正道という概念の、幾何模様と似た綻びのないうつくしさ。それが何より恐ろしい。それは閉ざされてゆくからだの恐怖を鈍麻させ、めしいたように服従させる。
──ぜんぶ、いやだった。
 壁の囲んだ閉塞を、善美に見好みよい漆喰の色で塗りあげた、うす暗く出口のない場所なんか。
……やわらかい草の上をはだしで駆ける、のびやかな二本の脚。それを一生封じ込め、すべもなく腐り落ちてゆく、その景色をただ眺めるような生とは……、なんだろう。……幽囚の肉が病むように、取りめられた未来のこころは、その魂は、きっと膿み爛れてゆく。……痛みも感じられないほどに。
……ただその場所へ在るために、うぶ声を上げたいのちだったか。この生は、おとなしく熟れ、囲われるばかりのそれか。
──いやだった。
 あらがい・・・・たかった。
……追いかけたかったのだ。
──輝いていたあの背なか。青の中をただまっすぐに飛翔する、あの禽のすがた。
 あれと、おんなじように……。翳っていない光の中で、わたしも、駆けたかった。
……いつもそのこころには、幼い日に見た池のみなもの景色があった。……それは、ゆれ動く世界の盛夏と映し出される空の色。とおい昔にほそくちいさな両脚で駆けたあの遊び場。波紋の向こうに転写された棕櫚しゅろの木蔭と、連なり重なり燃えたように枝咲く原色。白熱した日輪は、凪いだ真水を紺碧のかがみに変えた。……あぁ、そうして──、そこに映った、いとけない幸福。……ふたつ、そっくりに白塗りされた子どものかんばせ……。
 おさない日々、並んだ背たけに均されていたその差異は、やがてつよく顕になり。あの背中は、子どもから少年に。それから、男になり……、とおくなった。
 それでも、なお……。この躰は、そこに根付いた火焔の生がかつえたように吼えるかたちは、まだあれを──つよく、雄雄しく、純に生きるあの姿を──、真似たいと。あれに届き、並びたいと。……如何なる区分もそこにない、全くたがわぬものとして、在りたいと。
 それは、あの水鏡へかつて願ったその日から、すこしも絶えずに望みつづけた……、この躰にたったひとつだけの夢。
──おんなじになりたいと。
──ただ、こいねがった。
 嘲笑うように腿をよごした初潮のあと、さだめから逃げ出した。……握ったつるぎは重かった。からだのつくりを変えていった余分なものはなにもかも、削ぎ落として……、高い空に願った。──おんなじにしてくれと。あのとりが飛ぶなつぞらに、乞うた。もがきながら追いかけた。
……生まれ持ったさだめの殻を破り捨て、決められていた成虫のかたちから逸脱する……。そうやって、なにか、元来のからだのそれとはべつ・・のものになりたかった。
──なりたかったのに。
 どこで……、と、こころのなかで呟いて、そのあと、まちがいをと言ったおのれは。……それはいま、何者になったか。

(見える景色は、すべてちがう……)

──おまえは昼で、わたしは夜だ。
 たとえるならば燃えるような真夏の青と雲の白、それがおまえの領域なら、わたしの住みかはくらく凍てつく夜陰の紺だ。
 おまえが信ずる正道という道のひかりはわたしが恐れる檻のかたちで、わたしが焦がれる光輝の居場所と河のながれの速度の幸は、おまえを泣かせる不徳の沼だ。……いつの日か、外界へと流れ出てゆき顕になったその泥は、おまえのきれいな名前さえも汚辱する。
──見える景色はすべてちがう。
 ちがったら、どうすればいい……。
──剥離はできない。
 鉄より赫く鋳とかされ、蝋涙のようにとろけ、畸形に近く癒着しあったふたつのこころは、もはや、わかち難い。
……切り分けられるその時機は──剥がそうとした、そのむだ足掻きの気力を保てたいつかのみぎりは──、もう、とうに過ぎていた。
──このハヤブサ。……いとしい若どり。
 そのあるがままでいて欲しい。こころは、いつまでも純なままで。その信ずる正しさを、道を、ひかりを、決して涜神とくしんせず。……ひとからその身に与えられるすべての名は、清いままで。

(……わかっている。)

 これは、とてもやさしい男だ。
 そのこころは、ひとの躰に……、同族を相食むばかりの血を有した生きもののそれに過ぎるほど、やわらかい。
 この青紫の口は、幾たび……、請うたか。
 苛烈な陽射しのない、すずしく、ここちよく、安全に護られた場所へ──より安らかな日かげの居場所へ──移ってこいと、つま問うたか。
 幾たび拒んだこの身を、あれは、拒まない。
 いつか自身を汚ごすであろうあらゆる泥が湧き出る気配、それをたしかに知りながら……、白皙は、日常のうちただほほえむ。……自責のこころに目を潤ませるその一瞬、けれど、あのむらさきはもうどんな音も発しない。あるべき出口をうしない、頼りなくゆらめくことばを、のぞみを、すべて肺臓の中にかみ殺している。

 あれが──おまえが、わたしのところに居ついているのも、ひとえにおまえのそのこころがやさしいからだ。
──男の家に通うのは、こわい。
 たとえば──、たとえば。その土地、家屋、男の所持する領域とは──そこで囁かれるむつごとが、どんなに甘やかであろうとも──、それはほとんど、象徴的なあの檻と近いように思う。
……わたしの怯えを、おまえは決して軽んじない。
 おまえはやさしい。
 こわがらせたくないと。……敢えて、ここにいてくれる。
 おまえのようにつよく、雄々しく、地位ある男が、その躰がここに──女主人がもついえに──滞っていることは、なんと不名誉なことだろうか。このひそやかな共暮らしのかたちを隠し、人の目からおおっていられる安寧も、きっといずれは破綻する。実情とまったく異なる屈辱的な言い草で、囲われたなどと指されるのは……、おまえの名前を取り返しもつかないほどに傷つけるだろう。

……わかっている……。
 いざなわれるまま、きっと、おとなしく……、おまえの檻に入ってしまうべきなのだ。
……でも……、
 あぁ……。
……ちくしょう。
 あらがったのが間違いだったというのか。
 はじめから、生まれついた躰のさだめと戒められたその通りに、従うべきだったのか。
 おなじ・・・になりたいなんて、望んだのが、間違いだったのか!
 ちくしょう……!
 ……ちくしょう………。
──あぁ。
 望むたび、こんなにもぶざま・・・だ。
 ろくでなしだ。
 醜い。
 きたない……。

……むつかしい。
……想うことは、どうして、こんなにもむつかしい。
 ただ、あるがままにと……。
 それは、どうしてゆるされないのだろう。

「なあ、」

 あのひとつの概念が、だれもかもに讃えられるものならば。なぜ、他律の連鎖に型抜きしてあるそれだけしか赦されないのだろう。……しと──、見えざる手で以ち定められたそれだけしか……。

「……ん?」

 盛夏のとりはいつだって、真昼の空にいた。……暮れてゆくいさごの大地にへばりついたわたしの躰は、いまだぐずぐずしがらみの中にいる。

(……とどかないものだなあ)

 窓の外へは茫洋とした夜の肌。世界の色みは紺を増す。
 いまは見えない、あのまぶしい場所から注いでくる光線は、あんまりにも混じりっけがなく。あんまりにもまっすぐで。

(……そうして、さびしいくらいにきれいだ。)

──かつて……。
 かつて、その感情は、こころの奥底たいそう醜く存在した。……あばらよりも深い位置のそこからは、屠殺された牛から垂れる臓物のそれと大差を持たないにおいがした……。
……なぜ、ちがうのか。
 なぜあれは昼の極に生まれつき、なぜこの身はこんな夜陰のしもげた場所に屈撓くつにょうするのか。
 なぜ……、と、声に出さずに問うそのたび、とおい背中をねめつけた……、そんな日々が、確かにあった。まだ墨も染み込んでいない葦紙みたくまっさらにと……、そんな忘却を幾度となく望み、いまだ果たせていない、その未成熟な記憶が……、たしかに、存在した。
……あのまぶしさをそねむことの愚かしさはわかっていた。……うじのように肉へと潜った妬心が生み出す羨望は、やがてはその腐れるままにくずれ、風化し、しらほねに朽ちた。
 土の上、されこうべが、うつおな眼窩で高い空をただ見上げるそれと近い、わびしいあこがれだけが、そこに残った。
──あるいは、祈りのような、それだけが。
 朽ちたものの上に、空は皺むことなくつね青い。そこを翔ける点となったあのとりのすがたは、それの軌跡が滑るように描き出した円のかたちは、どこまでものびやかで。いつだって、なみだが出そうに……、きれいだった。
 かつて頬をつたっていった水のかたちに、たぶん、あの空の青さはうつっていた。陽のひかりも。雲の白さも。とりのえがいたあの円も。……あたかもそれは、おさない日に見た池のみなもの鏡のように……、世界の盛夏が、そこにすべて……。
 たとえ、その景色が──その青も雲も風もひかりも、たがわずおなじにと望んだ、なにもかもすべて──、この躰の、とどくことあたわぬかがやきであろうとも。……あのとりの点をさがして、この目は、その果てしのない夏を見た。……この指でふれることができたのは、所詮、ごく僅かなかけらでしかなかろうとも。原石から剥離した、ほんの小さな薄片であっても──、この目は、その燃えるような色を知った。それのほうへ駆けようと、望む夢を知った……。
 そうして、きっといつだって……、おまえは、ひびも欠けも存在しないあの青のなかを、ほんものの夏のなかを飛んでゆく。……かけてゆける。
 それは、泥の地表を這いずるばかりの、このみじめないのちにとって──、けれど、あぁ……、どれほどのなぐさめであったろうか。

(どうか──。)

……かつて、この体躯の血肉となってわが身のかたちを造ったもの。火焔のように望んだ夢は、いまや黒煤けたやにのながれを涙液みたく垂れ落とす。おきのあかさは、細く小さくふすぼるばかり……。
 煩悶にその身をくねらす地虫のような嫉妬のこころも、もはや、ない。
 すべて、白灰のうちに消えつつある。
 土のなかに、かえる……。
……いま、うしなわれた肉に代わって躰のかたちを保つもの……。それは、ただひとつの祈りだった。

「あのね、」

 つぶやくこの呼気、そのすぐ先に、わか鳥が持つ濁りのない双眸があった。……この、盛夏のひかりを残したままの男の目。風とともに雲を越え、はるかな青をただまっすぐに見据えている野禽の目。

「……だいすきだ」

 ささめいて、目をとじる。……こころの景色の遠くまぶしいところに、あのとりが飛んでいた。
 とりは、燃え上がる青の果てをどこまでも突き抜けて、突き抜けて、どこまでだってゆける。

(あぁ、どうか……)

……どうか、あのかがやきはいつまでも純なまま、永遠の夏の中にありますようにと。
 どうか、どうか、それだけはと……、仰いだ青さにひとりで祈った。

(……夜がくる)

 祈りは、夢見た景色のいちばん終り、西方に去りゆく青がふと途切れた余白のなか、夕星ゆうつづのまたたきとなってただひとつだけそこに残った。
 ひととせ・・・・にいちにち。……その日は、そうして終わってゆく。
 やがて、濃墨に近いその色合いが地表へいたった。
 空にはどんな生きものの影もなく、撒かれた砂粒のような銀灰ぎんかいばかりがあちらこちらに光っている。そこには太陽も月もなく、濃さを増した紺の世界は星に縫われて取り残される。たゆたう色は、どこにもゆけない。
 夜はあくまで大地の上を這っている。















遅れすぎて ペル誕……とは……。としか言いようがない……ほんとうに申し訳ありません……。

……わりとしんどかった……昨年からこの数ヶ月……。直しにいったい何ヶ月かかったのか……。死……。しかもとうとう修正無限ループの絶望感に耐えられず 後半部分の直し完全でないままアップしてしまったという……。粗さ 分かりづらさ 等々諸々お許しください……。もう限界……。

 ペルさんは見た目あんなに真っ白で綺麗で無垢そうで、属性は冬っぽく感じたのにそのじつお誕生日は真夏の盛りだった……。盛夏の陽射しと入道雲、そして抜けるような青空のもとに生まれついた男だった……。ということに感慨と感動を覚えすぎてネタ書きしたのがそもそものはじまり。こんな長丁場になるとは……。……もう春だよ……。orz
 章の切れ目に回想とか過去編とか色々挟んだらなんか中編にできそうな今回。言い換えれば短編じゃ説明が足らなすぎて本当に分かりづらかったかと……。すいません……。そして2p 3pの蛇足感……。

 あのお国はあんなに風土の厳しい土地ですから 一般に女性は内へ内へと社会的に守られ籠められされてしまいがちなのかも知れないなという。法的な強制力ほどではないにしろ 生まれた時から当たり前に従っていた風習はすべての人の心を確実に縛っている というふうな……。
「おんなじになりたい」のは 物理的なことや肉体的なことだけじゃなく、たぶんもっと概念みたいな部分で近づきたかったのかなと。
 おんなじ になるためにかつて必死の思いで彼女が勝ち取った今の地位や職やそういうものは本来そもそも女のものではないし、恐らく婚姻したら社会的に全部取り上げられてしまう。生きるすべてだとさえ思っていたそれを取り上げられたら あとに残っているのは 与えられるのは 壁に囲われた安全な、けれどもだからこそ暗い部屋だけ。未来に与えられる閉塞を拒むために走り出したのに、結局その閉ざされた中に戻っていくしかない。そうして、結局「おんなじ」にはなれない。
 好きなひとと一緒になることと飼い殺しにされることは明らかに違うのに、けれど同じことでもある。戒めとして刷り込まれた概念はすべてのひとを縛っていて、ペルさんだってその一人でもある。ありのままに輝くことのできる性に生まれついた彼には、そうでない対極の存在について見える世界が違いすぎて理解できる幅も狭い。ただ純粋に あたりまえに「守りたい」と思う気持ちが、対極からは束縛であり檻であるかもしれない、というような話でした。(説明が足らなすぎる)

 言ってみればぶっちゃけ対話が足りないふたり。本文中「なあ」「なに」「……なんでもない」のやりとりが何回かありましたがつまりそういうことなんだと。お互い思ったことはすぐ口にする愚直な性質のくせに本当に大事なことについては黙ってる。そりゃ行き違う。行けるところまで行き着いて同棲までしてるくさいのに 両者まだ片思い感が残ってる……。
 ぐんりちょ たぶん(たぶん)この短編集内では初めてすなおに「だいすき」って言ったのに これじゃデレになっていないかもしれない……。
 「おんなじ」になることへの執着と開き直りの兼ね合いが前書いたものとだいぶ違うのは設定が変わりつつあるたぶん時系列が違うからです。
……いつかこれをリメイクして一から十までちゃんと筋の通った中編にできるといいな……。旧長編の改訂短縮版みたいなの……。……いつだよ……。願望でしかない……。死……。




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