ある日、わたしたちは目をさました。ふたりきり、まったくしらない場所に立っていた。
だから、帰ろうとした。なんとしてでも。……けれど、できなかった。
……さっきまでは、あそこにいたのに。なんどもなんども、帰る場所をおもった。どうして、だって、さっきまでは……と。
……そのうち、妙なことに気がついた。
『さっき』というのが、いつのことなのか……わからないのだ。
おもいでに欠けたところがあるのか?
いいや、そういうわけでもない。思い出せないことなんて、なにもない。
そう、
なんだって思い出せるのだ。子供の頃、少年少女期、成人したあと、それから……とにかく、なんだって………
おかしい。『さっき』って、いつだ? ……いま、わたしはいくつだ?
たしか、さっきまでは……そう、その『さっき』がわからない。
わからないのだ。
……妙に、いびつなところだった。
……だれにも、わたしたちが見えないようだ。見えていても、見えないのだ。存在して、存在しない。
……なのに、気付けば居場所が湧いて出る。いつもそう。
……たぶん、それが
理なのだろう。
その頃、ようやく……わたしたちは、ここがただの『場所』ではないことを理解した。
広い広い空間は、世界だった。
帰り道を探した。
けれど、見つからなかった。
……そのうち、老いた。戻る術さえ知らぬままに。
いまを終えれば、あそこへ帰れるだろうかと……そう願って、抗えない睡魔を待った。
一回目。そうして目を瞑った。……次に開けば、そこは故郷に違いないと信じて。
……二回目。世界は、変わらない。あのふるさとではない。同じ、異郷の大地だ。
終わりの時から、時間だけが経過している。……既に、互いの顔へは絶望があった。
それでも、悲嘆の飽和は迅速に訪れる。
二回目。三回目。四回目。
時代だけが、この呪われた世界で進んでいた。
……みんなは何処にいるのだろう。
自分たちがここに落ちて、廻り続けているのなら。彼らもまた、何処かで困り果てているのではないか。
……二人で、探し続けた。何度も、何度も。何回も、何回も。
………結論を言うと、彼らはいなかった。いつだって、どこにだって。
さて、今は何回目か。
……もう、数えてすらいない。
この世界は、重ねる回数のたび目まぐるしく変わっている。かつてと比べ、何百倍も科学技術が進歩し……空想読本でしかお目にかかれなかった品々を、人は容易く創造する。
……世の進歩の内に在り。けれど、私たちは異邦人のままだった。この世界から、未だに抜け出せない。……このままではきっと、永劫に。
───なら、抗ってやる。
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