白状
みみもとで、あいてが泣いているようで──…おんなは、いささか困惑した。
「……おまえは、ひどい」
◆
天窓から羽根が落ちてきた。
鳶色の、縞模様のおおきなひとひら……。
「……ペルか。」
きいと軋む音が鳴り、見上げれば──…そこには、
異形は──するりと、隣に降りてきた。
──…おおきな音を立て、天窓が閉まる。
「ヘレウ、」
鉤爪を仕舞いもせずに。
そのせつな。
──…異形のおとこは、おんなを、床の上に組み敷いた。
◆
ぐずぐずと、みみもとで音がする。
──…泣き声だろうか。
このおとこは、意外と、よく泣く。とおいむかしから……。
「……ペル。……なにごとだ」
「とぼけるな。」
このまま、床の上で蹂躙されるのだろうか──と、ぼうやり思った。
(──背中がいたくなりそうだ。)
ひとごとのように考える。
「──…ひどいじゃないか。」
「──…わからんな……ペルよ。」
耳介に、ぬるりと、熱いものが触れる。ねとねとと這ってゆく。……獣のにおい。
はらのおくが、じくりと疼いた。
「ヘレウ……!
……あれだけ。
あれだけ……契ったではないか。」
「……ほう。」
「──…なかった、ことに、するつもりか。
ぜんぶ……!」
両腕を掴む鉤爪が、ひふに喰い込みいたみを覚えた。
「……なにか、ゆきちがいがあるようだが。」
「なにがだ!」
「べつに契ったつもりはない」
「……ヘレウ…!
おまえ……、やはり……」
「ただ、ひと
──…それだけだろう。わたしたちは。」
「ヘレウ、」
「ペルよ。……履き違えるな。
おまえの
鉤爪を、振り払おうとした。が、いっそうぎりりと締め上げられただけだった。
(──…
血走った
(──…どうして。)
……なぜ。
すなおな物言いが、できぬのだろうか。
──…
(……まったく、)
噛み付くように接吻され、ますます、ことばは喉の奥へ奥へと縮こまる。
……いつも、そうだ。
この、愚直なおとこを傷つけることばかり……。吐く。この口。
「ペル、」
「──…なにも、言うな……。聴きたくない、」
「──…ペル。」
「──やめろ!」
この、やさしいおとこがこれほどに取り乱すのは、ここ最近の
──おんなは、ひとりでそう思う。
──…避けていた。
ずっと。
その行為が、おとこをひどく傷つけるだろうと、知りながら……。
──…口をきくこともなく。
──…訪いに応えることもなく。
──…隣に立つことすら忌避し。
「──どうすればよいのか、わからなくなったんだ。」
つぶやけば。
──…ひふに強くふれる手が、ざらりと止まった。
「ペル。……おまえが、わからなくなった。」
ことばは空虚に落ちてゆく。
乾いた
「ペル」
「もう……やめてくれ、」
いとおしいと思う。
「なさけないな、ペルよ。」
「──…ああ……そうだろうとも、」
「──それでよい。……おまえは、それで」
この非凡な戦士の──…あまりにありふれた、取るに足らない内実が。そのこころが。
──…これほどに。
「──…いとおしいな。
おまえという
くろい
──激情を纏う金の輪は、すうと
ぽたぽたと。
ただ、ぽたぽたと──…あたたかく澄んだものが、おとこの閉じた
『白状』