蜜虫

 みやげに菓子を包んでもらう。
──ちいさなちいさな奥方へと。
 帰路に、あまいかおりが漂う。花にあつまる蝶がごとく、澄んだ翅をひからせて、羽虫がふらふら寄ってくる。薄暮の道に──あまいかおりが、揺蕩たゆとうて視えるのではなかろうか──…暗い海に群れひかる夜光虫やこうちゅうの軌跡のように。
 そんなことをチャカは思う。



 玄関をあけると、ちいさな奥が飛びついてきた。
 腰をかがめて、小柄なからだに高さをあわせ
──そのおもてを見やる。

「──…待たせたか、」

──…ごくかるく、互いのほおをりあう挨拶。男のかたいかんばせに、上気し湿しとったあいての頬は吸いつくようにやわらかい。

「お帰りなさい!」

──ちいさな女だった。……少女と言うほかないような。
 ほそやかな矮躯わいく。──それは、己の丈の何倍もある夫のからだに、びよっと跳ねて飛びついた。

「──チャカさま!」
──…そのひとは頑丈で、うんと、かたい。

 おおきな夫の、腹と胸の境界あたりに顔をうずめて──…少女は、えへえへわらう。
 ちいさな、しろい鼻をうさぎのようにひくひくさせる。
──あっというまに菓子の匂いを嗅ぎ当てた。

「──おみやげですか!」
 その声に喜色がにじむ。



 夕食後、菓子をたべる。紅茶よりも苦味の強い濃茶の液。カルダモンコーヒー。つるりとした白地に、あざやかな青の走る陶器の砂糖壺から、チャカの指は匙を出し、ひと匙、ふた匙、み匙……。すずしい顔だ。胃の焼けそうにあまい菓子と茶を口にする。少女は素焼きのうつわにあたためた乳。ぶうぶうと吹いて冷ます。お行儀はいただけない。
 あまい糖蜜にひたした菓子を指でたべる。とうぜん、ゆびさきはあまく、べっとりと汚れる。



 少女は、くちのまわりに、木の実の破片を幾つもつけている──みどりいろの飾りのように。……べとべとが糊がわりだ。指でとってやる。
──かまわず、あいては、くちのまわりをぺろぺろ舐める。やはり、お行儀がよろしくない。
 おやめ、と言いかけて──…べつのことに気を取られ、チャカは、声を出しそびれる。

──…少女のちいさなくちびるが、褐色の指をちゅうと吸う。

 ひび割れた指のおもてに、ちいさな──真珠のように小粒の──…歯が、当たる。

「──チャカさまのおゆびも甘い。」

 しろい歯を見せ、それは、子どものように笑んでいた。

──こら、とたしなめて。
 チャカは、じぶんの手をくいと引く。

──とがった部分があまく食い込む微かないたみ。……すぐに、離された。












寄生蜂みたくな少女と 腹の内から喰われてゆくおおおとこ。

みたいなきもちで 書いています このふたり。(近年は)



チャカさまは(ペルさんも)お国柄的に絶対過剰な甘党だと思ってる。(砂漠のお国は味付けにめちゃお砂糖バンバン使うため)



今年の4月にTwitterに上げたお誕生日SSです。サイト収録が大幅に遅れて申し訳ございません…。



ちゃかさま…5月の…公式の人気投票のことは…気にしないでね…

だいすきだよ…

21.08.23(21.04.26)
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