SSS『孤高の背中』
2015/06/06 00:00

『チャカっ! 聞いてくれ! ペルの馬鹿がまたやらかしやがって…!』



ペル様の御宅から、わたくし共の邸宅へ友人からの電伝虫がございました。


『何だと! チャカ! 元はと言えばこいつが悪いんだ!! 何度も何度も忠告したって聞きやしない…!』


回線の向こう側から、友人の受話器をお毟り取りになられたらしきペル様のお声が、くわんと部屋に響きます。
何とも面白可笑しいお二人の遣り取りを、チャカ様は苦笑なさってお聞きになっておいででした。


「…こら…お前ら…一々喧嘩する度にうちへ電伝虫して来るんじゃない…全く………で、どうしたんだ…」


チャカ様のお膝に腰掛けさせて頂きまして、わたくしもお三方のお話に耳を澄ませます。

チャカ様と、ペル様と、友人の三人は、二十年来のご友人同士。まるで、本物のきょうだいのようにお仲がよろしいのです。


『ペルの馬鹿が私の大切な書類を捨てたんだ!!』

『あんな場所にぶん投げて置くおまえが悪いんだろうが!!』

『煩い! 潔癖症男!』

『何だと無精女め…!』


ペル様も友人も、普段宮殿でお見かけする怜悧な印象は一変。
まさしくお兄様と言うべきチャカ様に、お気をお許しになって居られるのでしょう。
まるで、子供の喧嘩のように他愛ない言葉の応酬が続きました。

…ふふ、お二人とも、お兄様のようなチャカ様に甘えていらっしゃるのです。


「…はあ…またろくでもない事で喧嘩しているのか……」


対するチャカ様は、実にご冷静でいらっしゃいました。
くすくすと思わず笑ってしまったわたくしめの頭を撫でて下さり、回線の向こうのお二方へお言葉を返されます。

…チャカ様のお説教のような仲裁に、やがてはお二人ともお静かになって。
無事、仲直りをなさいました。
やはり、お二方にとってチャカ様は素晴らしきお兄様なのでしょう。

まるでかんかんに燃えた石のようだったそのご様子は、瞬く間にチャカ様に諌められ。
お二方はぎごちなくお互いへ謝られると、チャカ様にお礼を申されて電伝虫をお切りになられました。


「…はあ…突然何かと思えば、いつもこれだ…あいつらはちっとも成長せんで……」

「うふふ、ペル様たちはお仲がよろしくていらっしゃるのですね」

「…違いは無いが…困ったものだな……」


お膝の上からそのお顔を見上げれば、チャカ様はまた苦く笑んで居られました。

その、さらさらとした御髪へ手を伸ばし、するすると梳かせて頂きますれば。
ご寛大なチャカ様は、ちびのわたくしめの手が届き易いよう屈んで下さり、わたくしの好きなようにさせて下さいます。


「お二人とも、チャカさまに甘えていらっしゃるのですよ」

「…甘えて……おいおい、あいつらはもう子供じゃないんだぞ」

「ふふふ、でも、チャカさまはお二人の大切なお兄様ですもの!」


たくさんたくさん、お甘えになられたいのですよ。

わたくしが申せば、チャカ様ははあと嘆息なさいました。


「…あいつらに、おまえに……私は三人もの甘えたの面倒を見なくてはならんのか……」

「ま、わたくしめもご勘定に入りますの?」

「当然だ。おまえが一番だな」

「まあっ…! 心外ですわ!」


ぷうと頬を膨らませたわたくしは、しばらくチャカ様の御髪を弄らせて頂き。
そして、その褐色の頬っぺたに、ぺたりと手のひらを遣りました。


「…でも、そうすると、チャカさまは甘やかしの達人様でいらっしゃいますね!」

「……嫌な称号だな」


チャカ様は一瞬渋いお顔をなさって、やがてわたくしの手の項をぷにぷにとお突きになられます。

くすぐったさと可笑しさに、わたくしめはまたくすくすと笑いました。


「…でも、チャカさま、チャカさまも、どなたかにお甘えになりたくはなられないのですか? 例えば、わたくしとか!」

「……おまえと同類にしないでくれ…気色の悪い…」

「まあっ! チャカさまのいじわる!」


チャカさまったら、本当に………

ぷんすか怒りながら、しかしけらけらと笑う膝上のわたくしめを、チャカさまは奇妙なものを見るようにご覧になられます。
その視線の冷たさに、わたくしは毎度大変ぞくぞくとし………

おっと、違います違います。
わたくしめは垂れそうになった鼻血を啜りまして、くるりとチャカさまのお身体へ向き直りました。
ちびなので、そのお膝の上で。


(…チャカさまったら、本当に意地っ張りでいらっしゃる…)


そのままぎゅっと抱きつけば、チャカさまは呆れられたような嘆息と一緒に、またわたくしの頭を撫ぜて下さいます。


「……やれやれ…この甘えたには心底呆れ果てるな…」

「うふふ、それはどうでしょうか!」

「…うん? 何がだ?」

「いーえっ!」


逞しい筋肉に頬をすりすりとさせて頂きながら、わたくしめはまた笑むのでした。


(チャカさま、チャカさまは……)


チャカ様は、みんなのお兄様です。
ペル様の。我が友人の。

お三方の間には並々ならぬ絆があり、わたくしめの入り込む余地はございません。
…そのことに、嫉妬の念を覚えない訳ではないのです。

………でも。


「チャカさま、もっと、ぎゅーっとして下さいまし!」

「…何だ、今日はまた気持ち悪いほどくっ付いて来るな」

「気のせいです!」


ペル様、友人、わたくしめ。
皆に頼られ、皆に甘えられるチャカさまは、偉大なお兄様であり、わたくし自慢の旦那様です。

…でも、そうしたら。
チャカ様は、一体誰に甘えられるというのでしょうか。


(…それは、それはですね、きっと……)


くわあと口からあくびが出て、チャカ様の笑われる気配がします。
そのままかの方は、わたくしをまるで縫いぐるみのように抱っこの体勢で抱き上げて下さいました。

チャカ様とわたくしめの顔が、ぐんと近くなります。


「…チャカさま、どちらへ?」

「……一番の甘えたが眠たそうだからな。寝所へ寝かし付けに行かねば」

「まあ、まだお時間がお早くなくては?」


きょとんと傾げた顔は、チャカ様によって覆われました。
軽く触れられた口唇に、わたしは真っ赤になり。


「……チャカさま、そういうことは…お口で仰ってください…!」

「何だ、ちゃんと口で伝えただろう」

「違います! 言葉で言ってください!!」


くつくつという笑い声に、わたしは旦那様の首筋へ、顔を埋めました。


(…わたしは、チャカさまにたくさんたくさん甘やかされて、生きている……)


一歩を踏み出される度に、そのお体はわたしごと、ゆうらりゆうらりと揺れます。


チャカ様は、皆のお兄様です。
言わば、皆のご長男様。

そんなかの方は、今まできっと、誰にも甘えられずに。
しかし、皆をお甘やかしになられて生きてこられたのでしょう。


(…チャカさま、チャカさま、わたしは………)


チャカ様はお兄様。
だから、チャカ様は弟妹のようなペル様と友人へ、その雄々しいお姿しかお見せになられません。



チャカさまは、だあれにも、甘えることが出来ないのです。



「チャカさまっ!」

「…うん?」

「チャカさまには、わたしが居りますからね!」

「………はあ?」


チャカ様はたくさんたくさん、わたしを甘やかして下さいます。

でも、それは………

かの方の困惑なさったようなお顔へ、わたしはぎゅっと唇を押し当てました。


「……甘えたに加えて、今日は随分と積極的だな」

「………知りませんっ!」


また意地悪に笑われたチャカ様に、しかしわたしはひっそりと。
ひっそりと、このちっぽけな虚栄の心を満たすのです。


チャカ様は、ペル様にも友人にも、他の誰かにも甘えられません。
みんなを甘やかしてばかりです。

その"みんな"の中には、勿論わたしも含まれていて。



「でも、わたしは、チャカさまの奥さんですもの!」



唐突に、耳元で大声を上げたわたしの頭を、チャカ様はぺしりと叩きます。
でも、それはちっとも痛くない、優しい手のひら。


(……チャカさまは…)


チャカさまは、たくさんたくさんわたしを甘やかして下さいます。

でも、同時に。
わたしに、わたしにだけ。

わたしを甘やかす振りをして。
本当は、わたしへ甘えて、下さるのです。

誰にも出来ないそのことに、大いに満足し、優越感を覚えるわたしは。
心の貧相な、女なのでしょうか。


(……それでも、)


それでもやっぱり、嬉しいものは嬉しいのです。

だってそれは、チャカ様の妻たるわたしにしか出来ないことなのですから!


ぎい、と音がして、わたしは寝室の扉が開かれたことを知りました。
居間とは一変して、真っ暗闇の其処。
ぎしりぎしりと床板を踏みしめる音がしたのち、チャカ様のお身体は止まります。

そうして、まるで壊れ物にするように。わたしを、そっと抱え直すと。
かの方は、そろそろと寝台へこの体を降ろして下さいます。

背中に、柔らかなシーツの感触がしました。
殆ど何も見えない暗闇の中、わたしはぱちくりと瞬きます。

ぎしり、と寝台のきしむ音がして、わたしの目の前へ。
黒く、輪郭しか分からない大きな影が、覆い被さります。


「……チャカさま」

「…何だ」


平坦なような低いお声に、わたしは微か震える声で返しました。


「………お慕いしております」

「…今更だな」


素っ気なく答えたかの方に、しかしわたしは、これからたくさん甘やかされます。
そうして、わたしもたくさん、この誰より愛おしい旦那様を、甘やかして差し上げるのです。

それは、わたしにのみ許されたこと。
それは、わたしにしか出来ないこと。

そっと微笑んだ私の顔は、夜目の利くチャカ様には丸分かりなのでしょう。


「…何が可笑しい」

「……いいえ」


仰向けになった、わたしの面。
口唇へ、深く深く、熱い温度の口付けが降りてきたのでした。




(ひとり、わたしを選んでくださった)





****

三月末に書いたチャカさまとへんたいのおはなしでした。
Twitterでフォロワー様とチャカさまについてお話していたら思い付いたものです。

チャカさまは、物心付くより先にペルさんや軍吏長という家族のような弟分妹分がいて、二人を沢山沢山可愛がって育てて来たのだと思います。
沢山沢山甘えられ、甘やかしてあげ。
二人に何か辛いことがあれば、励ましてあげ。
とてもいいお兄さんです。

…でも、そんなチャカさま自身は、誰に苦しみや悲しみを見せていたのでしょうか。

誰にも、見せず。誰にも甘えられず。
そうやって生きてきたのが、チャカさまなのではないでしょうか。
辛い辛い、長男の性です。

たった一人で立つ孤高の背中に、後ろから飛び付いて行けたのは。
きっと弟分でも妹分でも誰でもない、この少女だったのではと。


まあ、あとチャカさまにコアラ抱っこされるへんたいが書きたかった。

以下、管理人のどうでもいい音ゲー録(九割チャカさま)


【嗚呼チャカさま 〜それでもやっぱりチャカが好き〜】

更新滞っておりまして大変申し訳ございません(二回目)

最近管理人は長編も更新せずになにをやっとるんじゃという感じですが、スランプにかこつけてワンピのダンバトやってます(クズ)
音ゲー音痴の瑞緑が音ゲーやるなんて狂気の沙汰ですが、アラバスタ勢がドリップするとなってはやらずにはいられなかった(書けよ)

むつかしい。次のステージに行けない。
夢は苦難に負けずアラバスタの同胞たちと故国へ帰ること(訳:アラバスタ勢のチームを作ってアラバスタステージクリアすること)
やっとガシャでチャカさまがドリップした。泣いて喜びました(マジ)
そのあとイガラムさんとコーザも出たのですが、ペルさんとビビ様はまだです。くっ…!

しかしペルさんがレア度☆5でどうしてチャカさまがレア度☆3なのか。
チャカさま、世の中は不条理に満ちておりますね。
それでもやっぱり、そんなチャカさまをお慕いしております。

現実でもヤフオクでチャカさまのワーコレフィギュアは700円なのにペルさんは倍近くしたり。
缶バッジはペルさんの方が十円高かったり。
バレンタインの時のおまけしおりにペルさんとコザはいるのにチャカさまだけいなかったり。
チャカさまのフィギュアだけビニールに包まれてブック○フの端っこで叩き売られてたり。
人気投票にアラバスタ首脳部でチャカさまだけ名前が無かったり。

チャカさま、世の中は不条理に満ちておりますね。
それでもやっぱり、そんな貴方をお慕いしており(ry

……次の人気投票は怠けずちゃんとチャカさまに投票します。

はー、ダンバト早くペルさんたちもドリップしないかなあ(長編書け)

もう少し充電して、ぼちぼち執筆再開したいと……お待たせして申し訳ありません。精進いたします…




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