同じ瞳に射抜かれる
目が覚めたらベルフェゴールが二人いた。なんて言ったら信じてもらえるだろうか。
「何が起きたの……」
「喜べよ、なまえ。お前の大好きな王子が二人もいんぞ」
「え?本当にどういうこと?二人?偽物じゃなくて……?それともあれ、双子のお兄さん生きてたの……?」
「はあ?あのムカつく野郎と一緒にすんなし」
「しし、なまえはほんと頭かてーなあ」
そう言って目の前にいる二人の王子はどさりとソファに座り込んだ。よく見てみれば片方は赤色のボーダーのトップスを着ていて、もう片方は紫色のボーダー。どちらもベルがよく着ているものだ。
突然の出来事に呆然としていれば、赤いボーダーのベルが私を手招きする。説明が大変だから赤ベルでいいかな?素直に彼等の元へと向かえば、もう片方の紫ベルが私の腕をぐんっと強く引いた。
「わっ」
「で、どう?」
「どう、とは……」
「王子がもう一人増えた感想に決まってんだろ?」
二人の間にある僅かな隙間に座らされると、両脇から詰め寄るように距離が縮まる。どう、と言われましても……。
見比べてみても、二人はそっくりそのまま同一人物にしか見えない。初めはマーモンの幻覚かとも思ったが、どうやらそうでも無いらしい。それならば本当に彼等はどちらもベルフェゴールなのだろうか。
そっと頬に触れてみても、柔らかですべすべな肌は変わらない。今度は覗き込むように前髪の奥を伺えば、いつもの見慣れた涼やかな瞳と視線が絡み合った。
なんだか心臓に悪い気がする。ただでさえこの瞳に見つめられると心臓が跳ね上がるというのに、今目の前には同じ瞳がもう二つ私を射抜いているのだから。
「何照れてんだよ」
「いやだって……」
「どっちもオレだろ」
だからでしょう。と、声を上げる前に、赤ベルが私の顎を掬って優しく口付けを落とした。突然のことに驚いて思わず抵抗しようとしたが、持ち上げた手はするりと絡め取られ身動きが取れなくなってしまう。口付けをしているベルと、そうでない隣にいるベルが同一人物だと言われても、向けられている視線がどうしても気になってしまった。
「おいこら余所見すんなよ」
「まってベル……」
「いやまず余所見って言わなくね?」
いつものベルの、すらりとした指が頬から耳へ、耳から後頭部へと渡ると、まるで逃げ道を塞ぐように再び口付けをした。隣で紫ベルが何かを言っていたような気もしたが、このキスを受け止めるだけでも私はいつもいっぱいいっぱいになってしまうから、彼の言葉は意味を理解する前に溶けて消えた。
「こうやって見えてんのか」
「ふっ……んん……っ」
ゆっくりと唇が離れれば伸びた銀糸がぷつりと切れて、目の前の赤ベルはぺろりと唇を舐めた。その行為だって何度も見ている筈なのに、私はきゅんと胸がときめくのを感じる。思わず視線を逸らせば、今度は隣にいた紫ベルと視線が絡み合ったような気がした。
「まだ終わってねーよ」
「ベルっ……んっ、っ」
もう片方のベルの口付けもやっぱりいつもと変わらない。息を奪っていくような、少しだけ強引なキス。肩に添えられた手を少しだけ握ってみれば、応えるように彼も優しく握り返してくれる。信じていないわけではなかったけど、本当にベルなんだと理解すれば、何となく伸ばせずにいた舌をゆっくりと侵入させた。
「ん……っ」
すかさず伸ばした舌を絡めとられ、紫ベルはふっと笑みを零した。背後では赤ベルが優しく私の髪を遊ぶように手櫛で梳いている。どちらの彼も、やはり私が知っているベルフェゴールであった。
「案外悪くねーだろ?」
「ちょっと、緊張するかな」
「なあなまえ、いいこと思いついたんだけど、聞く?」
「いや、聞きたくないです……」
「そう言うなって」
「絶対よくないことじゃん」
「いやいやそんなことねーって」
二人は逃がさないと言わんばかりに両側から肩を組んでくる。渋々と「いいことって?」と尋ねれば、二人のベルは楽しそうに口角を上げた。
「そんなの決まってんじゃん」
「三人で気持ちいいこと」
やっぱり聞かなきゃ良かった……。