眩しいくらいの陽射しを浴びた。木々は青々としていて、木漏れ日はゆらゆらと風にゆられて煌めいている。なまえは大きく息を吸うと、どこかすっきりとした香りが体の中に舞い込んだ。
 今日はとても天気が良かったので、テラスにお気に入りの紅茶を持ってきたのだ。お供には貴婦人のキス、バーチ・ディ・ダーマを添えて。彼女の足元にはアンバーが、肩にはフリージアもいた。

「暖かくなってきたからアイスティーでもいいかも知れない」

 そうと決まれば色々と持ち出さなければいけないものがある。なまえは足早にキッチンへと舞い戻った。後を追うようにフリージアが彼女の周りを飛び回る。XANXUSは部屋から持ち出させたソファに座り、その様子をぼんやりと眺めていた。

 てきぱきとグラスやポットをテーブルの上に置いていく。ポットには先程キッチンで入れたであろう紅茶が。ガラスのボトルにはオレンジやストロベリー、キウイフルーツやブルーベリーが沢山入っている。

「紅茶はニルギリにしたんです」

 果実を思わせるような爽やかな香りが特徴の南インドの紅茶である。なまえは嬉しそうに紅茶が入ったポットを手に取るとフルーツが入ったボトルに注いだ。
 途端にニルギリの爽やかな香りとフルーツの甘い香りが広がり、XANXUS達の周りで弾けた。なまえは満足そうに微笑むと、砂時計を返し、XANXUSの隣のソファに深く腰掛ける。その様子を見たアンバーは彼女の足元に擦り寄り、寄り添うように寝そべった。
 また、彼女達と同じようにベスターも主の傍で寝そべっている。彼等と戦場以外で共に過ごすことは多くは無いが、こうして天気のいい日には匣から出し、共に時間を過ごしている。穏やかな時間が流れた。

 紅茶に香りが移るまでの間、なまえは最近あったことをXANXUSに話した。彼は相槌を打つわけでもなく静かに彼女の話を聞いていた。紅茶はまだ完成していないが、待ちきれなかった様子の彼女は、皿の上に転がるバーチ・ディ・ダーマを恐る恐る一つ指先でつまむと、口の中に放り込んだ。そして何故だかXANXUSはその指先に目が釘付けになった。
 なまえは口に放り込んでからXANXUSを見遣ってパチリと瞬きを一つした。何処か茶目っ気のある子供のような表情であった。

「寄越せ」

 XANXUSは絶対食べないだろうと思っていたので、なまえは内心酷く驚いた。皿を渡しても取らないだろうと思ったなまえは、もう一つバーチ・ディ・ダーマをつまむと彼の口元までそれを持っていく。白い指先が口元に近付くと、あろう事かXANXUSは彼女の指先ごと食べてしまうかのように口を大きく開いた。彼に食べられてしまうのでは無いかと驚いたなまえは咄嗟に腕を引いてしまう。

「あ……」

 XANXUSはなまえを見遣った。特に咎めるつもりもない様子であったが、彼女の細い手首を掴むと再び自身の口元に寄せた。今度はバーチ・ディ・ダーマがちょうど入り込めそうなくらいに口を開くと一口でそれを入れた。そして咀嚼し飲み込むと、甘い屑が付いた彼女の指先ごとぱくりと口の中に入れたのだ。

「えっ……」

「甘ぇ」

 果たしてそれがバーチ・ディ・ダーマのことなのか、なまえの指先のことなのかはXANXUSにしか分からない。なまえは驚いて体を硬直させたが、XANXUSはなんてこと無いように彼女の腕を解放した。その時の彼の瞳の奥には微かだが熱を孕んでいることをなまえは見逃さなかった。なんと言うべきか迷い、視線を彷徨わせると、砂時計は既に全て落ちきっていることに気付く。なまえはボトルに入ったフルーツティーを、氷の入ったグラスに注いだ。
 カラン、と涼し気な音が鳴るが、なまえの体温は上昇するばかりであった。度々彼からの熱烈な視線を受けてはいたが、何せなまえは全てにおいてXANXUSが初めてである為、この火傷してしまいそうな視線にどうしたらいいのか分からなかった。だが彼女自身も彼と触れ合いたいという気持ちは日々募っている。
 なまえは小さなトングでボトルからオレンジを取り出すと、この熱も隠してしまえたらいいのにと、オレンジで蓋をするようにグラスに浮かべた。



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