暦の上では秋であれど9月はまだ夏の余韻が続いていて、10月になれば漸く夏の影から秋がこっそりと顔を覗かせ、少し肌寒い秋の風が二人を包む。けれどイタリアの秋は随分と穏やかで、毎年この時期は気候も安定し暖かい日が続く。まるでXANXUSの日を真綿で包み込むように、いやこの日だけは彼の怒りの炎が燃え上がらぬように、大空も祈っているのかもしれない。



 目覚めたら隣にいたはずのなまえの温度が無い。そういえば暫く前にベッドから抜け出していたような気もするが、ここ数日激務続きだったXANXUSは眠気に抗えずに、彼女を見送ったあと再び瞼を下ろしたことを思い出す。
 ちらりと見遣れば時計の針は既に昼の12時を指していて、XANXUSは仕方無しにゆっくりと上体を起こした。すると寝室の扉が開かれたと思うと、なまえが静かに部屋に戻ってきた。まだ彼が眠っていると思っていた様子のなまえは、彼が目覚めていることを確認すると優しい眼差しを向けた。

「おはようございます、ザンザスさん」

 暖かい日の穏やかな秋を感じる眼差しを受け、XANXUSは心にじんわりと何かが広がるのを感じながら、彼女の腕にある目立つそれに視線を向けた。
 それを抱いたままなまえはベッドの方にやってきて、XANXUSを一度見遣ってから腕の中にあるそれ──色とりどりの花たちをベッドの脇に並べ始めた。
 動く指先を見ながら、XANXUSは意図が分からずに視線を向ける。彼女は笑みを浮かべながら呟いた。

「本当は起きる前に並べたかったのだけど……」

 全ての花を並べ終えるとなまえは何処か茶目っ気のある表情を見せた。

「いつも思っているけれど、今日は特別貴方にたくさんの小さな幸せが訪れて欲しいから」

 朝から夜までね。と続け、花に被らないようベッドの縁に座ると、なまえはXANXUSの瞼にキスを送った。
 まるで子供遊びのようであるが、XANXUSには大きなプレゼントが必要では無いことをなまえも分かっているのだろう。これはその小さな幸せの一つ。

「夜まで楽しみにしておくか」

「もう……まだ夜までたくさんあるのに」

 なまえの腰を抱き寄せれば、自然とXANXUSの首に腕が回る。たくさんのキスを送り合い、彼は一瞬ここで抱き潰してしまうかと思ったが、きっと彼女は夜までもたくさん小さな幸せを用意してくれているのだろう。ならば、これは夜まで取っておかなければならない。

「この世界に生まれてくれてありがとう」

 その言葉はなまえの全てが詰まった言葉だった。



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