無言の告白
前世占い、というものを知っているだろうか。名前の通り占いは占いなのだが、前世を自分を知ることで現世での性格や運命、またこれから歩む道のりの鍵となる導きを得られるというものだ。
「前世でのあなたは今と同じく女性で……なにか特別な力を持っていたようね。お祓い……みたいなことをしていたのが見えたわ。そのせいで色々と苦労をしたみたい」
「それはたとえば……巫女、とかそういうものでしょうか?」
「ううん、そうではないみたい。ただあなたが誰かを守る力があって、そのために命をかけられる強さを持った人だったことは間違いないわ」
これが、わたしが興味本位で友人と受けてみた前世占いの結果だ。曰く、わたしは今と同じ十七歳のころ、そのお祓いのために命をかけて亡くなったらしい。正直なところ、今のわたしにはピンと来ない話だった。
「前世のあなたはとても真っ直ぐな人だったわ。それが今のあなたにも出ている。ああそれと、前世であなたは心から愛していた人がいたみたい。それも、あなたの中に残っているのが見えるわ」
「それって、運命の人、的な感じですか?」
「ええ、ええ、そうね。きっと現れるわ。あなたの前に。その人が、必ず」
「それはいつ頃ですか?」
「あなたが十七歳の間には、必ず」
「特徴は?」
「あなたと同じ、心が真っ直ぐで、ちょっぴり前髪が不思議な人よ」
「え? は、はあ……」
わたしは首を傾げながらその占いの結果を聞いた。隣にいた友人は、最後に答えた占い師の言葉にお腹を抱えて笑っていた。その上結局占いを受けたのはわたしだけで、友人は「私は前世とか信じないから」とばっさり吐き捨てて断ったのだから、たちが悪いと思った。
「そういえば運命の人と出会えたの?」
そんなことがあってからしばらく経った日のことだった。わたしは占いに行ったときの友人──硝子とともに、川越を訪れていた。東京から一本で行けるアクセスの良さと、小江戸と呼ばれる古き良き蔵作りの町並み、そして景観を壊すことなく新たなお店が立ち並んだそこは、近年再び観光地として盛り上がりを見せている場所だ。
夏は浴衣、冬は着物をレンタルして、町を歩く若者が多いらしい。例に漏れず、わたしたちも着物をレンタルして、さつまいもチップスやお洒落なカフェでテイクアウトしたコーヒーを片手に古い町並みを歩いた。
そうしてその先にある神社に足を踏み入れたときのことだった。隣を歩いていた硝子がふとそんなことを言ったのだ。わたしはなんのことかと首を傾げ、横を見やった。
「なんの話?」
「忘れたの? ほら、占いで十七歳までに運命の人に会うって言われてたじゃん」
「……ああ!」
「あれ、今日まででしょ?」
明日はわたしの誕生日だった。つまり十七歳は今日で最後ということである。彼女が言いたいことはそういうことだった。
「なにもないよ」
「ま、占いだもんね。そんなもんか」
「そうそう」
言いながら、わたしたちは鳥居を抜けた。なかは石畳の道が続いていて、正面に拝殿と本殿、右手に大鳥居がそびえ立っている。
本殿の隣にある細い道は、季節によって風車や風鈴が飾られているらしい。今は寒くなってきてなにも飾られていないけれど、それでもなかは広く神聖な空気に包まれていた。
「なんかここ、来たことあるかも?」
「初めてって言ってなかったっけ?」
「うーん、そのはずだったんだけど……なんか見たことあるような……?」
「実は小さいとき来てたとか?」
「それはあるかも」
不意にどこか懐かしさを感じてわたしはくるくると辺りを見渡した。けれども思い当たる節は見当たらず、わたしは首を傾げた。硝子の言う通り、小さい頃に来ていたのだろうか。
手水舎の水で心身を清め、拝殿の方へと向かう。そして賽銭箱の前で会釈をしてからお賽銭を入れ、硝子と確認をしながら作法通りに手を合わせた。
「そういえばここ、縁結びで有名らしいね」
一周まわったころ、硝子が言った。
「お守りでも買っておいたら?」
「縁結びの?」
「そう。運命の人に出会えるかもよ」
「えー、まだその話する?」
売店では様々な種類のお守りや絵馬が販売されていた。その数は予想より多く、柄も季節の花ごとに分けられたりしていてとても綺麗である。それほど興味がなかったはずなのに、わたしはその美しさに思わず目を惹かれた。そのときだった。
「どう見たって縁結びってガラじゃねーだろ」
「五月蝿いな。だったら来なければいい」
鳥居の方から男の子の声が聞こえてきたので、わたしは思わず後ろを振り返った。やけにその声が大きかったからだ。
年齢はわたしたちと同じくらい、高校生くらいの男の子だった。そしてその見た目も随分と目立ち、一人は白髪、もう一人は黒髪の、背の高い二人。こんなことを言うのは失礼だけれど、確かに縁結びの神社とはどこか結び付かない雰囲気だ。
だからだろうか、わたしはどこかその二人から視線を逸らすことができなかった。すると不意に、その男の子二人のうち、黒髪の子と目が合う。パチッ、としっかりと視線が絡んで、そしてどこか懐かしい気持ちに襲われた。
「え……」
驚いたのは、その男の子がわたしの名前を呼んだからだ。そしてその瞬間、どうしてだか泣きそうになってしまった。胸の奥がじんわりと熱くなって苦しくなるような、不思議な感覚。こんな気持ちになったのは、生まれて初めてだった。
硝子がわたしの手を取った。そして黒髪の男の子も白髪の男の子に肩を抑えられた。どうやら黒髪の彼はスグルと言うらしい。その音にまた、わたしは懐かしい気持ちになって、目の奥が熱くなった。
不意に占い師の言葉がフラッシュバックした。いつかきっとわたしの目の前に現れる運命の人。それは間違いなく、この人だと、わたしはこの瞬間確かにそう思った。