終章

 その姿を目にした時、本当は止まっていたのではないかと錯覚してしまうほど、私の心臓は大きく、そして急速に音を立てた。襲った呪霊は一つ残さず取り込んだ。道端で横たわるあの子に姿を見られる前に立ち去ろうかとも考えたが、私は迷った挙句、あの子に触れ、そしてその存在を確かめるようにあの子を強く抱きしめていた。

 気を失って瞼を閉じたあの子は、昔と変わらず幼い少女のようなあどけなさを残してはいたが、それでもうんと美しくなっていた。閉じられた瞼が開かれないで欲しいと願う自分と、その瞳に私を映して欲しいと願う自分。結局、悟に渡すまでその瞼が開かれることはなかったが、結果的にはそれでよかったと思った。変わらぬあの子と、変わり果てた自分。あの子の瞳にどう映るか、私は恐れてしまったのだ。

 私は美しい世界も、美しくない世界も見てきた。そうしてあの子がいない日々を過ごす中で、何度も思ったことがある。

 あの薄汚れた非呪術師の世界にあの子がいなくてよかったと。

 あの時の自分の心は既にあの子に奪われてしまった。しかし今も私はあの子のことを忘れず、変わることなく想い続けている。それだけはなにがあっても変わることはなかった。むしろ日を重ねるごとに、それらは増していった。

 紫陽花の花と共に、私の心も込めるように。心も花も、あの子に捧げるように。

 まるで呪いのようだと思った。しかしそれでも、わたしはあの子に自分のなにかを捧げたかった。そうして、あの子との繋がりを断ち切らないようにしたかった。

 もしかすればあの子は醜いと思っているかもしれない。しかし、私を忘れることなく想い続け、真っ直ぐと私に向かって咲くあの子がこの世の中で一番美しいと、私は思う。

 最愛の人。私はこれからもその美しい花を想い続けながら生きていく。
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