アイドルのあなたにくびったけ
今日はベルフェゴールくんの初開催のチェキ会。ここにいる子たちは、みんなベルくんに会うために、一番可愛い姿でここにやってきている。周りの熱気に、わたしは思わず圧倒されそうだった。
「次の方どうぞ」
もうあと数人で、わたしの番が回ってくる。少し離れた場所から聞こえてくる悲鳴に、もうずっと心臓が飛び出てしまいそうなほど緊張していた。手汗も少しだけかいてきて、思わずハンカチをぎゅう、と強く握る。この日のためにベルくんに伝えたい言葉を何度も考え、練習してきたけれど、上手く伝えられるか不安だな……。
「はい、次の方」
スタッフさんに呼ばれて、一歩ずつ前へ進む。この先に、ベルくんがいる。どうしよう。緊張で、呼吸がうまくできない。
いつの間にか目の前に並んでいた人はいなくなっており、スタッフさんに肩を押されて部屋へと導かれる。そして、開け放たれた扉の先に見えたのは、雑誌や画面越しで見ていた、ずっとずっと会いたくて、大好きな人だった。
「待っててくれてありがと」
一言声を聞いただけで、足がすくみそうになった。ほんものの、ベルくんだ。画面越しよりもずっときらきらとしているし、かっこよすぎてもうこれ以上近づける気がしない。頭の中はもう真っ白だった。
「なんでそんなとこいんの?」
「ひゃっ……わ、わ、」
固まっていたら、ベルくんの方から歩み寄ってわたしの手を取った。ベルくんの手が、わたしの手を握っている? これは、ゆめ?
「緊張してる?」
「う、はい……すごく……」
「顔真っ赤だもんな」
ベルくんはわたしの顔を覗き込むと、にっ、とよく見る笑みを浮かべた。彼のひとつひとつの言動に、どんどん好きが溢れてくる。もうこれ以上、この感情をなんて言葉で表したらいいのかわからないくらい、胸が苦しい。
「チェキ、ポーズ決めた?」
「…………」
「ほーら、落ち着けって。ハートでいい?」
頭がショートしたままこくこくと頷けば、ベルくんはわたしの腰に手を回してからぐっと引き寄せて、そのままカメラの方に向かって指ハートを作った。
釣られるようにハートを作ったけれど、もうわたしはそれどころじゃなかった。こんな至近距離に、ベルくんがいる。ふわりと甘い香水の香りがして、心臓が再び飛び出そうなくらい、どきどきと音を立てた。
「そろそろ時間です」
スタッフさんのその言葉にハッとした。ど、どうしよう、伝えたいこと、まだ全然言えてない。嬉しさと焦りと緊張でぐちゃぐちゃになって、目の奥がじわりと熱くなった。だめ、今ここで言わなくちゃ、もう一生伝えられないかもしれない。
スタッフさんが、わたしの方に近づいて来ているのが見える。最後まで言えなくても、とにかく伝えたくて、浮かび上がった言葉たちをそのまま零していった。
「あ、あのっ、わたし、ベルくんのこと世界で一番すきで、」
「うん」
「ベルくんの歌声も、思いも、全部全部大好きでっ」
何度も練習したはずの言葉なのに、思うように出てこない。けれどベルくんはわたしの手を離すことなく、静かに相打ちを打ちながら、わたしの拙い言葉を聞いてくれていた。前髪のせいで瞳はよく見えないけれど、ちゃんとわたしの方を見てくれているような気がする。
「たくさんたくさん、ベルくんに救われて、ありがとうが言いたくて、あの、本当に、」
「ちゃんと伝わってっから。今日もわざわざ会いに来てくれてありがとな」
そう言って、ベルくんはわたしの頭をぽんぽんと撫でると、「だから泣くなって」とそっとハグをした。そのままわたしはスタッフさんに連れられて、出口へと向かう。最後にもう一度振り返れば、ベルくんはわたしの方をしっかりと向いて、手をひらひらと揺らしていた。
2021.02.27