秋も深まってきた頃、秋咲きのコスモスが目立つようになってきた。コスモスは主に水無月から霜月に渡り見ることが出来る花であり、夏咲き・早咲き・秋咲きと、三つ分かれた時期に咲く。わたしはどの色も好きだが、ディープレッドキャンバスやレッドベルサイユなどの赤色が特に好きだ。
学校から帰宅後、自宅内の雰囲気が普段と違うことに気付く。何処か浮ついたような空気に、最近よく遊びにくる綱吉の友人達がいるのかと思ったが、どうやらそうでも無いらしい。
疑問を抱いたままリビングダイニングへと向かう。そこで目にした光景に、やっとこの浮ついた空気の原因を把握することが出来た。
「随分と凄い量……」
キッチンにはこれから調理されるであろう食材が所狭しと並んでいる。既にダイニングテーブルには何品か出来上がっているが、母は上機嫌で料理を作り続けていた。
良いことがあったのはまず間違いないだろうが、その量の多さに少しだけ驚いてしまったのは事実だ。
「ただいま、お母さん」
「あら、なまえちゃん。帰ってきてたのね、おかえりなさい!」
「今日はいつもより品数が多いみたいだけど、何か良いことでもあったの?」
「うふふ、それがね。お父さん、もうすぐ帰ってくるんだって!」
なるほど。それならば、この現状にも納得がいく。
「そこに絵葉書があるでしょ?」と言いながら、上機嫌に作業を再開した母を横目に、テーブルの上ある絵葉書を手に取る。そこには、もうすぐ帰る、とだけメッセージが書かれていた。もう少し詳しく書いて欲しかったな。
「お、美味そうだな」
「リボーンちゃん、もう食べててもいいのよ」
「んじゃ頂くぞ」
「お母さん、手伝うよ」
何処からともなくひょっこりと現れたリボーンは、行儀よく椅子に座って食事を摂り始めた。こうして見れば、赤ん坊にしか見えないのにな、と思いながら母の手伝いをしていると、次第に夜も更けてきて、二階から子供達と綱吉が降りてくる。
「えっ、なにこれ、すげーご馳走!」
綱吉もこの異様な空気が漂うダイニングルームに驚いている様子であった。子供達は沢山の料理に喜んでいるみたいだが。
「ツナ、これはどういうこと?」
「ツナ兄が百点取ってきたとか?」
「え……?いや……。普通に今日もダメライフだったけど……」
考えても思い当たる節が無い様子の綱吉は、母に直接聞こうと声をかけるが、ずっと上機嫌な母に綱吉の声は届いていないようだった。
「お母さん、綱吉が呼んでるよ」
「あら。ツっくん〜」
「包丁危ないって!!どうしたんだよ?何か、態度変だよ?」
「あら、そうかしら……?そういえばまだツナにも言ってなかったわね。二年ぶりにお父さん帰ってくるって」
「え?!な!はぁ〜〜?!」
大層驚く綱吉の反応に、フゥ太やビアンキは不思議そうに首を傾げている。
「そんなに驚くこと?」
「だって父さん蒸発したんでしょ?!」
どうやら綱吉は父が蒸発したと思っていたらしい。それならば綱吉達の学費は誰が稼いでるのだと母が告げれば、それもそうかも再び驚いている。
思い返せば、父が最後に家を出る時にそのようなことを母に伝えていたような気もする。確かに何も音沙汰も無ければ、母はあまり父の話をする人ではないため、誤解してしまうのも仕方の無いことであろう。
「大体、なまえは知ってたの?!」
「わたしは偶然話しているところに居合わせてしまったから、知っていたよ」
母から受け取った絵葉書を見て「石油出んのかよここ?!」と、再び大きな声を上げていたが、わたしも同じことを思っていたところだと、弟に共感してしまった。