(拍手お礼文)啓太の秘密 | ナノ
■ 啓太の秘密

 実家の母ちゃんから定期便が届いた。

 でっかいダンボールの中身は、野菜やら果物やらがこれでもか!ってくらい入っていて、隙間には、さきイカやら柿の種やら、詰め込んでいて、その上日本酒の四号瓶まで入ってる。

「量が多過ぎんだよ……」っていつも思うんだけど、母ちゃんの愛が詰まってるってのは分かってる…… つもりなんだけどね。

 腐らせたら勿体無いから、半分は同じマンションの上の階に住んでる幼馴染の直の所へ、いつものように持って行くことにした。

 夜の10時を回ってて、バイトに行ってたとしても、いつもならもう帰ってる時間だった。

 最近、アイツなんだか元気ないからな。 そんな事を思いながら日本酒も一緒に持っていくことにした。

 量が半分になって、ちょっとは軽くなったダンボールを抱えて上の階へ行ってみると、見たことのない長身の男が、直の部屋の前に立っていた。

 黒いコートがすげえ似合ってて、なんてゆーか、雑誌のモデルみたいなイケメンじゃん。

 ―― 直の知り合いかー? まさかなぁ……。
 とか、思ったけど、「あのぅ……」と、一応声を掛けてみた。

 振り向いたその人は、黒い髪がツヤツヤしてて、間近で見ると色白で、すんげえ綺麗な顔してて、そんでもって、すんげえ大人な雰囲気で。

 こんな大人が直の知り合いなはずはない!って思ったんだけど、


「こんばんは。 直くんの…… 知り合いなんだけど、留守みたいで」と、その人は言った。


 な? なんか、ワケあり? って思ったりなんかしたけど、その人は俺と違って落ち着いていて、
「また来るから……」と、言って、終始スマートに受け応えをして、去って行ってしまった。

 その後姿を見送って、暫く呆然としていたのだけれど、直が居ないみたいだから、取り敢えず一旦自分の部屋に戻った。


 ***


 アイツ、いったいどこ行ったんだ?

 そう思いながら、日付が変わって暫くしてから、もう一度直の部屋に行ってみたら、丁度帰ってきたばかりの直が、部屋の鍵を開けようとしているところだった。

「こんな遅くまで、どこ行ってたんだよー」と、声をかけた俺を振り向いた直の顔は、なんだか疲れてるような、今にも泣き出しそうな、そんな風に見えた。

 やっぱり何かあったんかなと、思いながら直の部屋に上がり込んで、二人で実家から送ってきた酒を飲むことになった。

 小さい時から、いつも一緒に連んでたから、悩みとかあったらそのうち言ってくれるだろう。
 今は、嫌な事を忘れるくらい、楽しい時間を過ごさせてやればいっか。 くらいに思ってた。
 だけど酒が進むにつれて、俺もちょっとは酔いが回ってて、ついつい訊いてしまったんだ


「んで? なんかあったん? 女か?」


 話の流れは、普通に10代の健康な男子なら挨拶代わりみたいなもんだ。 だけど、直の返事に一瞬酔いが冷めるくらいには、驚いた。


「…… 女じゃねーよ、俺の好きなのは男なの!」


 それは嘘でも冗談でもなくて、本当の事だった。
 だけど、直の話を訊いているうちに、俺はなんだか嬉しくなってきた。

 可愛くて人懐っこい直は、小さい時から誰からも好かれて、勿論女の子からも絶大な人気があった。
 ファーストキスなんて幼稚園の時の滑り台の上だぜ?
 しかもその時、両側から二人の女の子に同時にキスされたんだぜ!

 そんなだから、本人には悪気は無いってのは分かるんだけど、女の子にモテすぎて、多分感覚が麻痺してきたんだろうとは思う。

 中学で、即効初体験済ましちゃってたし、その後も彼女とかも作ったりするけど、長続きした試しがない上に、エッチに関しては奔放過ぎる奴だった。

 そんな直が、本気で恋をしてる。
 悩んで悩んで、苦しいけれど、でもそれは多分、直には初めての経験で。
 なんてゆーか、お母さんになったような気分?息子の成長を喜んでるような?

 え?お母さんて、そんな気分になるのかは知らんけどな!

 しかも、その相手は、さっき俺が直の部屋の前で会った、あの大人の男!
 直が惚れるのも分かるような気がするよな。

 よし、今日はお前に朝まで付き合うよ。 飲め飲め! もっと飲め!

 あの透さんて人と直が、上手くいくことを、俺は何があったって応援するからな。

 俺はな…… 本気でそう思ったんだ。


***


「なんか俺…… やばい……、気持ちわりぃ」


 だけど、いきなり直が俺はに寄りかかって、気持ち悪いと訴えるから、その場の雰囲気が、一変した。


「えっ!?」

「…… ぅ……、」

「うわっ、ちょっ、ちょっと待てっ!! ここで吐くなっ!」


 日本酒がいけなかったのか、元々直は、そんなにアルコールが強くなかったっけ……。


「…… 直、おまえ…何、泣きながら吐いてんだよ」


 飲み過ぎたのか、トイレで泣きながら吐く直の背中を、俺は必死に摩ってやった。
 ずっしりと重くなった直の身体を支えて、ベッドまで移動させて座らせると、今度は、「寒い…」と言って身を縮こませる。


「寒い? じゃあ、布団に入れよ」


 俺が布団を捲ってやると、直はジーンズを脱ぎ捨てて、布団の中へ滑り込んだ。


「おい、俺、帰るけど、大丈夫か?」


 少し苦しそうに目を瞑っている直の顔を覗き込むと、「足……」とうわ言のように直が言った。


「足がどうしたって?」

「…… 寒い…… 足が寒いから、あっためてよ」

「あ…… あっためてって…… なんか毛布とか余分に無いのか? 俺、部屋から持ってこようか?」


 部屋に帰ったら、確か誰かが泊まった時用の毛布が一枚あったはずだと思い出して立ちあがると、直が布団から手を伸ばして、俺の手首を掴んで引き止めた。


「一緒に布団の中に入ってくれたら、あったまるから……」

「え…… ? 毛布あるから、取ってきてやるってば」

「やだ…… 我慢できないもん」

「ちょっ、何が…… あっ、」


 直に手を引っ張られて、ベッドに倒れこんでしまった俺に、直が抱き付いてきた。


「お、ちょっ、お前!何抱き付いてんの…… !」


 その上、直の奴、「寒い寒い」と言いながら、足を絡めてくる。
 仕方なく俺は、そのまま布団の中に入ったんだけど、


「…… ジーンズ、冷たいから脱いで……」って、言って、直が俺のベルトを外し始める。

「あ、ちょっ、待てって、わかったから、自分で脱ぐから!」


 な、なんだよ?この展開…… でも寒いっつーてんだし、しょうがないか。

 なんか納得いかないけど、取り敢えず布団の中でゴソゴソとジーンズを脱いで、床に放り投げた。
 そうしたら、その途端、直がまた足を絡めてきた。


「んーあったかい……」


 そう言って、首に腕を回して抱き付いてきて、直の頬が俺の頬にぴったりとくっついた。
 な、なんかちょっと、これヤバくね?
 さっき男を好きになったって告白されたから…… ってわけじゃなくて、、
 間近に見る直の顔は、俺の初恋の直の姉貴の梓さんにそっくりで、な、なんか…… あーーっ!
 直の足が俺の股の間に入ってきて、な、なんか俺のムスコに当たってるし! な、な?


「キスしたい……」

「ちょ、お前、なんか勘違いしてね? 透さんじゃ……っ」


 文句言ってる途中で、直の唇に塞がれて最後まで言えなかった。

 ―― 神様……
 俺、幼馴染の直とキスしてしまいました。

 突き放す事は出来たはずなのに、なんか、直の舌が俺の口ん中に入ってきたら、なんか色々どうでも良くなっちゃって……。

 俺も多少酔ってるしで、なんか気持ちいいし…… で、はぁ……

 なんて直のキスにちょっと身体の中に火が灯ってきちゃったな…… なんて考えてたら、急に直が、電池が切れたように動かなくなって、規則正しい寝息を立て始めた。


「なんだよ…… まったく……」


***


 翌日、直は高熱を出した。
 病院に連れて行ったらインフルエンザだった。

 昨夜のキスのことは勿論、寒いと言って、俺に抱きついたことも直は憶えていなかった。
 俺はなんだか、自分がすげえ悪いことをした気分になって、でも言えなくて。

 直がインフルエンザで寝込んでる間、飯を作ってやったりして看病してやったのは、
 直はあの時、相手が俺だという認識はなかったのに、俺はそれを分かっててちょっと本気になりかけてしまったから。
 ちょっと後ろめたい気持ちもあって、俺は一週間、可愛い幼馴染の世話をした。

 直が全然憶えていないあの夜のことは、きっと一生俺の胸の中にしまっておくだろう。
 これからも直は、俺の幼馴染で、一番の親友だからな。

 心の何処かで、直とそういう仲になってもいいかな…… なんて思ったことも、死ぬまで誰にも言わない。

 俺だけの秘密にしておく…… ことにする。


(おしまい)

『啓太の秘密』

2014/05/05 拍手お礼文として公開。

2015/06/26 お礼文差し替えにより、『出逢えた幸せSS集』に移動。


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