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むしろ、ずっと姿だけを見ることができたらって思っていたのに、たとえお話しすることはできなくても、たとえ花嫁に対するあてつけのように連れてこられたとしても、それでも傍にいる権利を与えられたんだから、それ以上を望んでしまう。
諦めるつもりだったのに、与えられてしまえば、見るだけのつもりじゃいられない。
……自分でもわかっていたんだ、一目見るだけでいいなんていうのは、花嫁としての責務を果たせそうにない自分を守るための言い訳にしかすぎないっていうことは。
会えるはずがないっていうのがわかってるのに、会いたいって思い続けることはすごく疲れるんだ。
それに、叶うはずがないとわかっているのに行動して、やっぱりだめだったらとてもつらいでしょう? 望むものが小さければ、叶わなかった時の心の傷は浅いから。
やっぱり僕では無理だったんだって、そう言って笑うことだってできるから。
でも僕は、こうやってありえないことに、たとえそれが望んだ最高の形ではなかったとしても、ディル様の傍にいることのできる権利を手に入れたんだ。
彼が僕を見てくれないっていうのも、花嫁としての僕を受け入れてくれないって言うのもとても悲しいし、つらい。
けれど、ありえないと思って諦めていた権利を与えられた僕は、やっぱり花嫁として彼を支えていきたいと思うんだ。もしかしたらその先も……って少しは望んでしまう。それは僕が花嫁だから、なのかな?
――それからの日々は、花嫁として傍にいるって決心したからって言ってもいいものじゃなかった。正直とてもつらい日々だった。
望まれて花嫁になったわけではないけれど、それでも近くにいれば少しはお話できると思っていたのに、ディル様とは少しどころか一度も……それこそ挨拶すら一度もできずにただ無情に日々だけが過ぎていく。
周りの人たちの視線だって、苦しかった。
ディル様が花嫁はいらないというのを公言していて、その中で連れてこられた僕。
……偽者だって言うのはわかっているから、その視線は憐れみしかない。僕は本物なのに……それすら言えずに、ただ拳を握って微笑むしかできなかった。
初めからなんとなくわかってはいたけれど、このままじゃ、せっかく傍にいることができているのに、花嫁としてなにもできない。やっぱり僕は、花嫁失格だ。
そう絶望する日々が続いたある夜、僕はふと目が覚めた。
すぐに寝ようと思ったけれど、その日はどうしてなのかなかなか寝つけなくて。
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