ぎりぎりと歯ぎしりが聞こえてきそうな形相でにらみつけてくるやつらに、襲いかかってくるか? と内心高揚する俺だが、そんな俺の期待を余所に、やつらは思いついたかのような顔をすると、にやりと気持ち悪い顔をする。あ? どういうつもりだ。

「くくっ、クソ平凡が……いい気になれるのも今のうちだ。てめえの後ろ盾はもうすぐなくなるからよぉ」

「……そういえば、そうでしたね。ふんっ、自分に五十嵐がついてるからって、でかい口をきいて、覚悟しておきなさい」

 取りまきの態度に、わずかないやな予感が漂う。なに考えてやがる、こいつら。


 訝しげに見る俺だが、そんな取りまきの言葉に、泣くのをやめたまりも野郎が、大声で叫んだ。

「嵐! お前のことも解放してやるからな! ほんとは俺のことが大好きなのに、操とあいつのせいで素直になれないんだろっ! 埜亜だって、操に騙されてるに決まってるんだから、俺が助けてやるんだ!」

 そう言い残して走り去ったまりも野郎。

 その後を取りまきどもはまた金魚のフンよろしく追いかけていった。

 俺はやつの残した言葉を考えつつ、操のことを盗み見る。

 ……操はやつらの去っていったほうを睨みつけていて、その表情が少し珍しい。

 ……それにしても。

「随分情報残して行きやがったな、あいつら」

 クソまりもはまた不快なこと言ってやがったが、無視だ無視。

 後ろ盾ってのは五十嵐のことで間違いねえだろう。いや、五十嵐を操の後ろ盾だとかバカなこと言ってる時点で間違ってるが。

 そして、その後ろ盾がなくなって、なおかつ操に覚悟しておけ……なんて、答えを言ってるものだと思う。

 あの野郎ども、五十嵐たちに戦争吹っかけようとしてやがるな。間違いなく。

 それがいつだかわかんねえけど、もうすぐと言っていたからそういうことだろう。

 ……でも、志貴から抗争があるという話は聞いてねえし、あいつもそういう雰囲気じゃねえ。

 前に抗争があるって時は、わかりにくいが嬉しそうな顔で、「……殴る、嬉しい」と言っていた。さすが狂犬。

 ということは、多分やつらは、五十嵐のチームを闇打ちでもする気なんだろう。噂には聞いていたが卑怯なやつらだ。

 俺はそこまで考えがまとまったところで、操を見る。

 俺が気づいたんだから、操が気づいてねえはずがねえ。

「……で、どうするんだ、お前」

「……なにがぁ?」

「なにが、じゃねえよ。わかってんだろ? あのクズども、闇打ちでもする気だぜ。五十嵐に伝えねえでいいのか?」

 五十嵐は強い。だが闇打ちされればそれなりに傷を負うかもしれない。

 そんな俺の質問に操は、「――僕の知ったことじゃないもーん」と歩き始める。

「そうかよ」

 いつもと同じく興味なさ気に歩く操の後ろを歩く俺は、操がどんな顔をしていたか知らなかった。


 操が、笑顔でも、興味なさ気でもなく……なにかを考えているような顔をしていたなんて、そんなの知らなかったんだ。

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