失敗


 失敗したと思った。

 ひどく怯えた表情で、今にも泣き出しそうな表情で走り去った日和の背中を見て、俺はぽつりと呟く。泣きそうじゃなくて、目じりは光っていたかもしれないと思うと後悔はさらに強くなった。

「最悪だ」

 コンビニへ飯を買いに出た道中、偶然日和と会った。日和の様子が初めからおかしいのも、なにかに怯えた様子だったのにも気づいていたのに、感情に任せて全部ぶつけちまった。

 最近会えなかったこともあってなのか、それとも、いつもより色濃い日和の拒絶に抑えられなくなっちまったのか……とりあえず選択を間違えたっていうことだけは痛いほど理解してる。

「……」

 日和が無意識に引いてる境界線を越えるのは、まだ早いというのはあいつの態度を見れば一目瞭然だ。わかっていたから、今まではあいつが傷つかない程度にアプローチしてたのに、今回は完全に傷つけちまった。


 ――なんで隠すんだ、なんで俺になにも言わない? 俺にぶつければいい。そんなに焦って帰って、俺じゃなくてあの男に全部ぶつけるのか? そう思ったら、もう我慢はできなかった。

 すべてをぶちまけたら日和がどんな反応を示すか、考えることすらできなかった。その結果が、これだ。

「クソ」

 いつまでもこんなところで突っ立ってるわけにもいかねえし、俺は日和が消えたほうに視線を向けながらも歩き出した。もう飯を買いに行く気も食欲もなくなっている。

 道中、何度も日和の家があるらしい方向に視線を向けるが、虚しさと後悔が募るだけだった。

「日和」

 ……次会った時、あいつがいつもと同じようになっていればいい。それはすなわち、相変わらずの躱される毎日を意味するが、あの泣きそうな顔より何倍もましだ。なにより、いつもの日和だったら、傷つけることなく落とせるって確信してる。

 日和がもとに戻った時に、今日俺がしたことを、言ったことを謝るつもりは一切ねえ。そんなことしちまえば、俺は自分の気持ちを否定することになるからな。

 だから、次あいつに会った時は俺も務めて普段通り境界線を踏み越えないアプローチをする。そんで、次期が来たら……俺がそうしてもいいと思ったら、境界線を強引でもなんでも踏み越える。

 そう決意を固めながら俺は足を動かした。


 ――が、その日を境に日和は、宇佐とすら連絡を取らなくなった。

 日和と連絡が取れなくなった、メールをしても返信すらない。あの夜から数日後、そう泣きそうな顔で宇佐が言った言葉に、俺はなにも言えず、春貴が宇佐を抱きしめるのをただ茫然と見ていた。

 日和が連絡してこなくなった一因に、俺があることはまず間違いないだろ。ただ、それだけじゃないんだろうなと思ったのは、きっとあの日の日和の様子を知っているからだ。知っているからこそ、心配で……日和の顔を見たくてたまらなくなった。


 後悔したばかりだっていうのに、会えるかわからない日和の様子を見に行こうと決めている俺は、やはり宇佐を抱きしめる春貴と同族なんだろ。

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