通常ならありえない方向に曲がった腕を、足を見ておかしそうに笑う男の口元。激痛と恐怖と涙で霞む視界の中で記憶していたそれがフラッシュバックする。

「っ」

 身体の奥から手の先まで冷えていくような感覚。

 思い出したくもない過去が、まるで鎖のように身体を縛りつけ、俺はその場からいっさい動くことができねえ。身体ががたがたと小刻みに震えてきて、どんな顔してるかなんて考えなくてもわかる。

「っぅ」

 尋常じゃないくらいの吐き気が襲ってきた。俺は、まだ、だめなのか。

 もう平気だと思っていたのに、あいつらと同じ匂いを少しでも感じると、だめなのか。やっぱり、なにもできないのか。


 ぎゅっと汗でぬれている手のひらを握り、俺は唇を噛んだまま佇んでいたら、チンピラの一人と目が合ってしまった。

「あ〜? んだよぉ、なに見てんだよォ」

「っ」

 言いながら近寄ってきたチンピラ。逃げたほうがいいっていうのはわかりきってるのに、まるで足の裏に根が生えたみたいで、身体がぴくりとも動かない。

 コンビニなんか、来なければよかった。夕飯くらい抜けばよかったのに。そう今さら後悔したって遅い。


 目の前に男たちが迫ってきても、まだ身体は動かなくて。――ただ、震えがひどくなるばかりで。

 俺は、目の前でにやにやと加虐にまみれた笑みをこぼす男を、目に見えてわかるほど震える身体をもてあましながら見上げた。

「おーい、震えてやがる。キヒッ、こわいのかぁ? おい、どうなん――」

「なにしてる」

 いやな声を遮るようにした、冷たい圧力を放つ声音。

 俺は、はっとして、声のほうに視線を向ける。即座に向けたつもりだったけど、思っている以上に動作はゆっくりとしたものだった。

「あぁん? 見てぇ、わかんねえのかァ? 教育的指導を〜」

「見ていて、聞いている。“俺の島で、てめえらなにしてんだ”?」

 まるで格が違うような睨み、オーラにチンピラたちがたじろき、加えて男の言葉に驚愕がふさわしい表情をした。その男の言葉で、俺もチンピラと同じように凍りつく。


 だって、こいつは……ヤクザだ。

「――っ」

 “あいつら”と同じ、チンピラとその仲間だったヤクザ。

 男の言葉を反芻し、理解した瞬間、異常なほどの恐怖と震えが身体を襲った。

「は……、あっ、あんたは……!」

「わかったんならさっさと失せろ。これ以上騒ぐようなら……言わなくてもわかるだろ」

 明らかな脅しを発して、それに怯えたチンピラたちが急ぎ足でその場を後にするのを見送りながら、俺は汗がにじむ拳を握る。怖くて、怖くて、怖くて。呼吸すらできなくなりそうだった。

 身体が、冷たい。

「おい」

「っ」

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