焦り



「日和くん帰っちゃったね〜。っていうか結局あの人何者なのー? ねえ、うさちゃん」

 春貴の視線を感じて、振り向けばばっちりと目が合った。

 春貴はそのまま、腕の中にいる宇佐に問いかける。目が合ってわかったけど、相変わらず嫉妬しているらしい。……俺も人のこといえねえけど。


 さっきの男は、いったいなんなんだ。いや、日和のなんだ。

 なんであの男は、日和にあんなに心を開いてもらえてるんだ。俺は、未だにちっとも開いてもらえねえのに。少しくらいは開いてもらえてるかもしれねえが、それもあの男への開き具合から見れば、ないようなものだ。


 いらいらする、と俺は拳を握りしめた。

「えっ、あ、和真先生は、お医者さんです」

「お医者さんー? お医者さんがなんでうさちゃんや日和くんとお知り合いなのー? なんで、日和くんはあんなになついてるの」

「あ……和真先生は、透先生と同じ病院で働いてる、お医者さんで、その……ひよくんの、お父さん、です」

「は……」

 父親? ねえだろ。

 だって、あの男はそんな年には見えなかったし、言っちゃ悪いがまったくと言っていいほど似てねえ。それとも日和は母親似なのか?

 思わず問いただすようなきつい目で宇佐を見れば、春貴の腕の中で宇佐がびくりと身体を震わせ硬直した。

 目を潤ませて怯えたような様子に、内心しまったと思いながら春貴を見る。


 予想通り、怒りを宿した目で俺を睨みつけるやつがいた。めんどくせえ。

「うさちゃんを怖がらせないでよー」

 いつもと同じ間延びしたしゃべり方だが、その声に柔らかさなんてものは一切ねえ。

 しかもそれを腕の中の宇佐には絶対に悟らせねえあたり狡猾でいやになる。まあそれだけ溺愛してるってことなんだろうけどよ。

 完全に敵意を向けられ、はあ、とため息を吐く。

 感情に任せて視線を送った俺に非があるなんてわかりきっているから、「悪かった」と素直に謝罪した。

「ぁ、い、え。あの、ごめんなさい。これ以上は言えない、です。ひよくんが言うまで、言えない、です。ごめんなさい」

「うさちゃん、謝らなくてもいいからね〜? ほら、いい子だからそんなにしょんぼりしないで」

「わ、ぁ、は、ハルさ」

「はい、ぎゅー」

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