本当の笑顔
最後にアオに会った日の、あいつのふいに見せた笑顔が忘れられない。
それまではただ元気よく笑っていただけなのに、突然見せたふんわりとした柔らかい笑み。
そして、俺が正直に海の瞳について口にしたら浮かべた、嬉しそうな、でも今にも泣き出してしまいそうな、そんな笑顔。
あの日から、ずっとそれは俺の記憶に残っている。
最後に、「近いうちにまた来る」そう言っていたあいつは、それからもう俺たちの前に姿を現すことなく、“引退した”という話が流れた。
そんな雰囲気を微塵も感じさせず、本人もそんなことを一言も言わなかったから、正直動揺した。
結紀は、アオになにかあったんだと言っていたが、俺もそう思う。
アオがなにかを隠していたことなんて、会って話して、すぐに気づいた。
たまに見せる、悲しげな表情に、なにかに必死になっている雰囲気。
けど、聞いちゃいけねえことかもしれないから、聞くことはできなかった。
そして急に、まるで最初から存在しなかったみたいに、俺らの前から姿を消したアオ。
なぜあんな笑顔を見せたのか、なぜあんなにも悲しそうだったのか、知りたくて、俺はトキたちにも協力させ、アオを探した。
それなのにもかかわらず、一向にわからないアオの居場所。
……なあ、お前は今、どこにいるんだ。
探し続けてる間に、一年半が経ち、俺はもう高校2年生だ。お前は今はたしか高校1年生だったか?
数少ない情報である、アオの学年。
圭介があの時質問してくれたおかげで、少しでも情報があるのがありがたい。
まあ、あとわかってることと言えば、読書が好きということと、あとは胸にあるアザ……くらいか。
思わずはあ、とため息をつくと、それを聞いていた潤がきらりと目を光らせた。
「新、ため息をついてる暇があったら、仕事を進めてください」
「……わぁってるよ」
「なんですか、その言い方。本当にわかってるんですか?」
「だから、わかってるって言ってんだろうが。しつけぇよ。……っつうかお前、編入生迎えに行かなくていいのかよ」
めんどくせえけど、理事長代理から頼まれてただろうが、迎え。
こんな時期の編入なんて、わけありとかだろうから関り合いになりたくねえけどな。
それは潤も同じらしい。
潤はいやそうに眉をひそめながらも、「そうでしたね、行ってきます」と言い、生徒会室の出入り口まで歩き出す。
「あ? なんだよ。まだなんかあんのか?」
扉の前で止まった潤を訝しげに睨むと、潤はふっと笑う。
「監督者がいないからって、さぼらないでくださいね」
「さぼるか……さっさと行け」
俺はそこまで不真面目じゃねえよ、と声を上げるが、笑ってる潤は聞いてるか怪しい。
にっこりと厭味ったらしい笑みを残し、潤は生徒会室を出ていった。
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