嘘の代償
その次の日は食堂に行ったんだけど、シンさんたちは来なかった。
そのことで、そういえばシンさんたちは食堂にめったに来なかったんだっけと思い出して、ちょっとだけ安心。
そして一週間後の今日、椿のテンションはすごく高くなっている。
椿が言う、“王道編入生”が来るから。
「……椿、そんなに楽しみなの?」
思わず聞いてしまった僕の問いに、椿が目をキラキラさせて答える。
「あったりまえ! すっごい楽しみだよぉ。あー、早くお昼になんないかなぁ……食堂での王道展開、すっごく楽しみ!」
編入生の子は、僕らより一学年下だから、食堂でくらいしか会うことないもんね。
僕は椿の高すぎるテンションに苦笑する。
「とりあえず、今は授業の準備、しようね」
「う、わ、わかってるよぉ」
実のところまだ一時間目すら始まってないんだ。
もうすぐ始まるって言うのに、編入生のことに気を取られっ放しの椿は、その準備すらしてなくて。
僕はふふっと笑いながら、椿に言った。
椿は僕の言ったことに従って、教科書とノートを机の上に出して広げる。
僕はそれを見届けると、椿に小さく笑いかけた。
「……海、ここでその顔はまずいよぉ」
「……え? なに?」
首を傾げて聞くんだけど、椿は周りを苦い顔で見渡すだけでなにも言わない。
それにつられて、僕もクラスを見渡すんだけど。
……? なんで皆顔を逸らすんだろう?
僕は益々混乱するばかりだ。
「もー、このクラスはまだいいけどさぁ、恋愛感情なわけじゃないしぃ……何回も言ってるけど、外でしたら、ほんとにだめだからね! わかった?」
「う、うん……ごめんね」
真剣な顔で言われたら頷くしかない。
頷いた僕に、満足そうな顔をした椿は、「まあ、溺愛攻めが見つかったら、守ってくれるだろうから、いいんだけど……むしろ、無自覚に笑顔を振りまく海と、それに嫉妬する溺愛攻め……え、ちょ! やばいっ、萌え!」とぼそぼそと呟いてたけど、なんのことだかやっぱりわからなかった。
そのまま一時間目は始まって、お昼までの時間はいつもと同じように過ぎていった。
そして、お昼になり、にこにこ笑顔の椿と一緒に食堂に向かう。
椿ってばすごく目がきらきらしてる。……そんなに楽しみなの?
まだ会ったことがないのに、椿はその子のことを王道だって言って、楽しみにしてるけど、一体どういう性格の子なんだろう?
不思議に思って、食堂への道すがら椿に聞いてみた。
そうすると目を輝かせて答えてくれる。
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