嵐の前


 朝起きて共同スペースに出た僕を迎えたのは、ハイテンションの椿だった。
 ……もしかしてずっと起きてたの?

 びっくりして目を見開く僕を尻目に、椿がまたいつもの調子で語り出す。

 ご、ごめん椿、さすがに朝からそのテンションはきついかも。

「もうすごい萌えたよぉ! やばいっ、だってまだ興奮が冷めないんだもん!」

「そ、そうなんだ……」

「うんっ、期待以上だった! ああ、早く来週にならないかなあ」

「……」

 たった数時間前に見たものをもう待ち焦がれてる椿に、ちょっとだけ自分が重なった。

 ……そういえば僕も待ち遠しかったなあ。シンさんたちに会いいくことが。

 帰ったらすぐ次に行く日のことを考えてたっけ。

 思い出したらまた切なくなってきたけど、なんとか押しこめる。
 昨日あんまり深く考えないって決めたばっかりなのに、だめだよね、こんなんじゃ。

「つ、椿、そろそろ顔洗ったり、準備しないと」

「あ、そっか。今日も学校だったっけ」

 話すのに夢中で忘れていたらしい椿を促して僕も学校へ行く準備を始める。

 まだ顔も洗ってないからとりあえず洗面所へ。

 椿はもう顔を洗ってたらしいから、自分の部屋に洋服を着替えに行った。

「……はぁ」

 鏡に映るのは相変わらずの冴えない自分の顔。

 昨日も思ったけど、鏡を見るたびに自分が空と同じところは顔だけなんだと思い知らされるみたいでいやだ。

 僕はため息をつきながらも顔を洗い始めた。

 顔を洗い、歯も磨き終わって、洗面所から出たんだけど共同スペースに椿はいない。

 ……まあ後で呼べばいいよね。

 僕は日課とも言える朝食作りを始めた。

 入学した当初から椿とはずっと同室なんだけど、彼は料理を作ることが一切できない。

 だから、おのずと料理をするのは僕の役目になったわけで。

 でも毎食を僕が作るわけじゃないよ? 僕が作るのは朝食だけ。

 それも椿が、「ほんとは全部食堂に行きたいんだけど、徹夜するならまだしも、僕、朝起きるの苦手だから……」と朝起きて食堂に行くのが無理だったから。

 僕も元々料理を作るのが嫌いじゃないから別にいいんだけどね。

「……いい匂い!」

「あ、椿、もう少しだけ待ってて」

「うん」

 ようやく部屋から出て椿に声をかける。

 それに素直に頷いた椿は、イスに座ってテーブルの上に行儀よく手を置いた。……なんだか子犬みたいで可愛いなあ。

 僕はそれをほっこりと見ながら、できあがった料理を皿に盛って、テーブルの上に置くと、自分もイスに座る。

「いただきまーす」

「……いただきます」

 そして手を合わせると静かに食べ始めた。

- 54 -
[*前] | [次#]

(9/32)

←戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -