「椿、そろそろ学校行かないと」

「あれぇ? もう、そんな時間なのぉ? あー……行きたくないよぉ。なんで夏休みってこんなに短いんだろ。二か月はほしい」

 二か月はさすがに長いんじゃない?

 無茶いうなあなんて、笑いが込み上げてきた。それを隠すことなく素直に笑いながら、「ふふ、でももう終わっちゃったし。学校行かなくちゃ。ほら、急ごう?」と声をかけた。

「わかってるよぉ」

 ぷくりとほおを膨らませて言う椿にまた笑いながらも、二人で並んで寮を過ぎて、そのまま校内に入った。

「お! 海と椿おはよう」

「伊鶴くんおはよう。早いね」

「おはよぉ。お前よくこんな早くから学校出てこれるねぇ。絶対したくないけど」

「そうか? 別に早くねえって。今日は朝から絵描きたくてさ!」

 にこりと笑った伊鶴くんの言葉に、椿が、「うえぇ、早起きすぎぃ」と舌を出していた。う、うん。ちょっと思っていたよりも早かったよね。僕もびっくりしちゃった。

「で? どんな絵描いたのさぁ?」

「ん? ああ、ちょっと待ってな……」

 ごそごそと鞄の中を探る伊鶴くん。少しして、「あった!」と嬉しそうに声をあげた伊鶴くんは一枚の絵を取り出した。

 わ……! いつもの淡い色づかいの絵もすごいって思ったけど、この絵も好き。

「伊鶴くんの絵、すっごく好き」

 思わず口から出てしまった。

 伊鶴くんが取り出した絵は、鉛筆で濃淡を現した絵だった。白黒だけれど、なんだかすごく柔らかいタッチで、やっぱり描いている人は同じなんだなぁって思う。

「やぁっぱ伊鶴ってば絵うまいねぇ。うん、僕も伊鶴の絵好き」

「! さんきゅ! すっげぇ嬉しい。なんか二人に言ってもらえると格別だな!」

そう言いながらも照れると、頬を赤らめて小さく笑い声をあげる伊鶴くん。こういう時伊鶴くんってすごく癒されるなぁって思う。

「……その顔はぁ、僕らの前でやるんじゃなくて、書記の前でやりなよぉ」

「? 犬崎の? なんでだ?」

「なんでもぉ」

 照れ隠しのように、ぼそりと呟いた椿の言葉に、伊鶴くんはきょとん、と首を傾げた。そんな伊鶴くんに、「はあ」と小さなため息をつく椿……少し頬が赤いから、やっぱり照れてるんだと思う。

 二人のやり取りにふふっと笑っていたら、始業式数分前のチャイムが鳴った。

「あ、ふ、二人とも、そろそろ体育館に行かなくちゃ!」

「そーだねぇ」

「おう! 行こうぜ」

 わわ、もうクラスの半分の人がいなくなっちゃってるよっ、ま、間に合えばいいんだけど。

 ひやりとしたのは僕だけじゃなかったみたいで、椿と伊鶴くんも、僕と一緒に早歩きしながら体育館へ向かった。

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