中在家長次と言うその男が気になり始めたのは何時だったか。

ぼそぼそと話す暗い奴だと認識していた。七松小平太と言う煩い男がやたらと構うのを見ていた。何であんな奴に構うんだ。体つきは良くとも何考えてるか分からないような暗いそいつは、きっと同室の善法寺伊作よりも忍者に向いてない。なのに体格の良さか縄標の上手さか何がかわれたのか知らないが、中在家長次は大人に気に入られていた。中在家は優秀だ、中在家は良い忍者になる。そんな大人達の言葉が俺の臓を煮え繰り返させた。あんな協調性の無い男に何が務まるというのだ。

「おいお前」

俺は中在家以外誰も居ない事を確認して言った。扉をぱしゃりと閉めると図書室はまるで戦場の様な空気。大半が自分の出した殺気である事くらい分かりきっていたが、それでもその雰囲気に耐えて、殺気が気持ち良いんだよなあと狂ったふりをすれば、自分がエリート忍者にでも成った様な気がしてゾクゾクする。

「…食満留三郎、何だ」

ぼそぼそと話すその声をやっとのことで聞き取る。中在家は俺の名を知っていた。いや俺はエリートだし中在家が俺の名を知ってる事くらい当たり前だけれど。

「本読んでりゃ偉いのか」

始めて会話する様な奴にそんな事を言われても困惑するだろうが俺の知ったことか。中在家は少しだけ顔をしかめて、それから視線を本に戻した。

「…偉い偉くないなんて個人の価値観だと思う」
「お前は偉いと思ってんの」
「別に」

苛立った。その大人びた体つきも低い声も全部。本当はしたくて堪らないバレーボールを馬鹿だ餓鬼の遊びだと嘲笑ってきたのもそれで優越感に浸る為だと言うのに、その傍で中在家は七松小平太とバレーボールをしていて且つとても楽しそうであった事を思い出して苛立った。中在家の行動全てが大人びてる様に見えて。
しかし本当はと言うと苛立って苛立ってその先に見えたのは光であったように思う。闇の中に見えた光に苛立って、ああ、そうだ。俺は嫉妬していたんだ。あの幽艶な形振りに。

「読書は趣味だ。それより私は鉄双節棍を上手く扱えないから…留三郎が凄い、と思う。」

ぼそり、図書室に響く声に涙が出そうになった。中在家は俺が考えている以上に大人で、そんな男に馬鹿げた質問をした自分は皆が思っている以上に餓鬼で、俺は理不尽さと遣る瀬無さに居た堪れなくなった。

「…そんな事知ってる」

つんつけどんに返した言葉は勿論嘘で、隠しきれない動揺を中在家に悟られぬ様必死だった。
背を向け本を選ぶふりをすれば俺も大人に見えるのだろうか。低い背丈と一向に訪れない声変わりの遅い喉を恨みながら、無意識に選び差し出した本に驚く。恋の始まり?恋愛享受読本?まさか、そんな。
目の前の雄偉な男を見て顔が熱くなった。俺はいよいよおかしくなってしまったらしい。


愛と呼ぶには
  ま だ 足りない
 





大人な中在家と早く大人になりたい食満
2、3年生くらいの頃の話だと思っていただければ…!

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