こへちょ?/ちょっと暗い話です。



「その腕を取り払ってしまおう、そうしたらもっと美しくなれるよ、長次。」
そう言うと目の前の男は口をだらしなく開いて笑った。


不完全な具象


精神力の強さは忍にとって不可欠である。あの血生臭い戦場で正気を保つには戦力だけでは足りない。実戦演習が増えるにつれて精神はグラグラと揺れたが、それが忍としての最高のアビリティーだと思い込む事で気を紛らわせる。
そして時折気のふれた忍を見かけるが、それを他人事の様に思う事は出来ない。自分もその様に成る可能性を捨てきれないからだ。

「長次」

名を呼ばれ我に返ると、目の前に小平太が居た。何が可笑しいのかにやにやと笑いながらこちらを見るその目はどこか訝しい。こういう時どう対処すれば良いのかなんて分からなくて、なけなしの言葉を口にする。

「…お前の美学に口出しする気は無いが、腕を切られるなんて御免だ。」

「長次こそ何を言っている。腕なんて不要なんだよ、この世の人間全員が腕を切り落とせば良いんだ。私はそうする、だから、長次、お前の腕を一番に」

そう言い切る間も無く刀を持った小平太が近づいてくる。その刀には血がこびり付いていて、良く切れないだろうと思ったが、同級生に刀を向けられているのだ。それも自分の腕を切ると言う。

「やめろ…!」

涙を溢しながら小平太は切りかかる。その手を払うと刀は床に叩きつけられた。長屋の床に血が付着する。それを見て初めて、それが先程付けられた真新しい血だと気付く。

「忍に、人間に、腕なんて不必要だ。そうすれば切らなくて済んだのに。そうすれば誰も悲しまないのに。生臭い戦場に具象の美なんて必要無いんだよ、なあ、長次。」

そう言うと余計に涙が溢れた。拭って抱きかかえると、血の臭いが鼻腔を擽った。


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