食満→長
「構ってくれ」
蝉が鳴く、それは煩く耳障りな音だった。初夏の訪れを感じさせる今日この頃、それを耳に私は不安定になる。
閉め切った部屋に意味は無い。だけどこの暑苦しい中でわざわざ空気の通り道を作らないのは、必要以上に構ってくるそれとの関係を知られたくなかったから?まさか、考え過ぎだ。今日はたまたま部屋を閉め切りたい気分なんだ、そう言う事にしておいてくれ。
「暑いな」
頬を汗が伝う。それはふいに手を伸ばし、また耳障りな音を立てた。
「好き、」
音は私の鼓膜を揺らす。それが嫌でふいと顔をしかめる。目線はとうに本から逸れていた。
「俺のこと嫌いならそう言えばいい」
馬鹿な男は、苦虫を噛み潰した様な顔で笑った。それ自体が苦虫の様だと思って、私は思わず含み笑いをした。
「拒否しないのは嫌いじゃないって事?」
口を開く。煩い、蝉みたいなそれは、無邪気に笑いながら。
「知ってるか」
「うん?」
「好きの反対は無関心だと」