「嘘をつくのってさ、やっぱり躊躇いはないの?」
「何、おたくそんなに俺が気になっちゃうの?」
ふとした質問を目の前の人物にぶつけてみた。
昔からの付き合いで私は、この馬鹿に突き放されては近付かれたり優しくされたり殺されかけたりした。
メスネコみたいなピンクのあの人よりかは私は目の前の馬鹿とは付き合いは長いと誇れるがお互いがただ知っていて溝を作っては埋めたりして。
いつしか面倒になって溝を埋めるというより橋を作って渡ってお互いを気遣うようにしていたけれども橋を渡りたくなったら渡って踏み込むという事が当たり前になってきていた。
今の私の質問も彼がそうして生きてきた事を知っていて聞いている質問だ。
何より私から踏み込んで仁王立ちして偉そうにして問いただしているから橋の向こうから来た私は土足で遠慮も無しに聞いている為に無責任だと思うかもしれない。
しかしそんな私にも彼は慣れたように質問を交わそうとしているがそれをさせまいと乗り出した。
「人を欺くって辛い?悲しい?罪悪感ってある?自分の代わりに誰かが死ぬのとかも、何も感じられない?非道?無関心?傍観者?んあー?あーるーぅ?」
「あのねぇ…おたくは俺を何だと思ってるわけ?人じゃない何かと思ってる?」
『おや、人間だったのか?』とわざとらしく言ってやれば肩を竦めて首を振って私から背中を向けた。
質問に答えるつもりはないらしい。
だが、諦める事なく質問を繰り返していれば突然手が伸びてきて私の髪を一束掴んで引っ張り顔を近づける。
痛いとは思わなくて答える気になったのだろうかとへらりと気の抜けたような笑みを浮かべれば『俺だって辛くなったりすんだよ。』と面倒そうにだけどはっきりとそう告げた。
誰かに感情を抱いたりしていたのだろうか。
もしそうだとしてもきっとメスネコなんだろうが、あれは一時的なんだろうと勝手に決めつける。
この馬鹿だって大人なんだ、男女の触れ合いや男女の関係なんて想像できてしまう。
「ほーう?メスネコさんかしら?」
「…おたくは?」
私の質問には答えないで逆に聞いてきたから、私は肯定とみなして『ははぁ?』と気持ち悪いくらいに顔をにやつかせれば掴んでいた髪を更に引っ張って無言で急かしてくるから私は目の前の馬鹿を指差してやった。
「あーるぅ?気づいてないとは言わせないよ?」
「…俺かどれだけ酷いことしてたか忘れたのか?」
私の答えを聞いて正気かと言いたげに睨み付けてくる。
まあそんなのは私の態度の所為でいつも正気か、みたいに見てくるが何故か態度だけは変わらない。
私の態度もそうだが、性格上相手を苛つかせてしまう行動をとってしまうからこの馬鹿以外で私と長く関係を保とうとする人はいない。
「んー?私はちゃーんとした人間だからさぁ、ここらへんがどっきどっきするんだぁ?」
「言っとくが、俺はお前をどうも思ってないからな?」
確かめるように言われても、私は笑みを絶やすことなく小さく笑ってバカから離れる。
掴まれていた髪は強く掴まれてたせいか数本髪が抜けてしまったが、気にしない。
「あなたは嘘をつくのが得意だから、いつかはなたはメスネコさんの所に帰っちゃうもんね、あるぅー?」
「それは、…分かんねえよ。」
いきなり沈んだ声に私はさっきまでの態度をやめて頬に手を添えて『自分が?』と聞くけれど何も答えてくれない。
なんでかなんてわからない、分からないけれど分かってしまうのは好きになったからなのだろうか。
「私ね、まだ大好きですよ?大好きで仕方なくて、独り占めしたいんだぁ?」
「告白されてもな…。」
態度は正しても性格が許してくれなくて、場の空気が和らいだように見えてだけど私だけは真面目に答えたからじっと見つめるしか出来ない。
「んーん?あるさんはぁ、嘘だと思うんです?」
「俺がおたくに対して態度を忘れてなかったら、嘘としか思えないな。」
「収集つかないでございます!はい、私の質問に答えてくださあ?」
やっと忘れてくれていたと思っていたのか、目を数回瞬かせて壮大な溜息を吐いて『辛くないって言ったら嘘になる。』と言ったきり言葉を発さなくなった。
終わることのない状況に私は目の前の馬鹿の頭を撫でてやってから立ち上がって数歩離れる。
もちろん私の行動に驚いた彼はすぐに捕まえてやろうとしていたが、私は見透かしていたから離れて行ったのを少しむっとしながらも追い掛けては来なかった。
さっきと同じような態度でにやついた後に背中を向けて私は歩き出した。
去って行くんだと無言で語れば私の名前を呼ばれて首だけを向けて言葉を待った。
「今度、イル・ファンに来い。」
「ん。ほいじゃあねぇ?アールヴィン?」
内容はきっと頼まれ事だ、いつもの事だったが何だか少し彼の態度が違ったのが気になった。
だけど、いつか分かるんじゃないかと今は聞かないでおいて覚束ない足取りで歩いた。
いつか、対等で私を見てくれる日が来るのだろうか。
「対等で、私を愛して欲しいですなぁー?」
誰に言うわけでもなくポツリと私は呟いた。