捧・頂小説 | ナノ



表裏と裏表









身分が違うからと咎められ、生きている世界が違うと言われ、蔑まれ、疎まれ、妬まれ、嫌われ、そして、良からぬ噂を流される。

蔑まれても構わない。

妬まれても構わない。

疎まれても構わない。

嫌われても構わない。

だけど、彼を巻き込むのだけは許せなかった。

私一人だけが、世間からとやかく言われても耐えられるから。

身分目当てで色仕掛けをしたりとか、人を使って無理矢理付き合わせるようにしたとか。

そんなの、した覚えもした記憶もないわけで。

ただ、ただ私を守って強く支えてくれるのは彼からプレゼントされた世界で一つだけの首飾り。

シルバーアクセだが、それは高価なもので私みたいな人間が持つには勿体無い、

しかし、銀のチェーンに通されている指輪には私の名前と彼の名前が刻まれている。

だから、世界で一つしかないのだ。

ぎゅっと握って目を閉じれば今も思い出せる記憶。

目の前で私と同じように一緒にチェーンに通された指輪を握り締めてくれはる温かいぬくもりを。


私は今日も皆からの仕打ちに耐えて、彼が訪れるのを待っている。


日が暮れた頃、店を半分まで閉め切った時に急ぐ足音が聞こえて来てそちらに顔を向ければ私の愛しい人が肩で軽く息をしながら店の前に立っていた。

顔を見れただけで嬉しくて小さく名前を呼びながら駆けて大好きな腕の中に飛び込めば受け止めて優しく抱きしめてくれる。



「こんばんは、エミリオ…。」


「ああ、遅れてすまないな…今日は任務が長引いてしまった。」



申し訳なさそうにする彼、エミリオに大丈夫だと言うようにゆったりと首を振ればそっと額にキスを落としてくれて、私は気恥ずかしさで下を向いてしまえば『アリス』と名前を呼ばれて見上げれば普段見ない表情を見せてくれる。

初めて彼を見た時は、私がまだ小さい時だった。

お互いもただ顔見知りだけだったが、ある事をきっかけに私はエミリオに思いを伝えた。


エミリオのために毎日綺麗なお花を届ける。


それに対してエミリオは毎日来てくれる。


そんな単純な約束でも私からすればとても嬉しくあり、同時に怖さもあった。

知り合った時から周りの反応は全く良くなくて、どうしてかなんて当時の私にはあまり理解が出来るものではなくて。

いつしか花屋に来てくれるお客が減って来て、一人で唯一我が家のように毎日店に来るのはエミリオだけになった。

この時にやっと理解ができたけれど、不思議と悲しくもなければ悔しくも寂しくもない。

理由は単純なんだけど、単純でも何でもない、ただ来てくれる人がいるという事実がそこにあるから、私は平気でいられた。

完全に店を閉めて私は奥にエミリオを招き入れて少しだけの時間を共有する。

他愛もない会話だけどもそれだけで明日一日を乗り切っていける気がしてきた。



ふと会話が途切れてお互い黙り込むが、エミリオはぼそぼそと話し始めた。

これはいつものことだから気にしはしていない、話せる剣とお話しているみたいで、置いて行かれている気分になるのは私だけなのかもしれない。


寂しく思っていたらエミリオがふと顔を上げて私を見てくるから首を傾げさせて見つめ返せば顔を多少赤らめたように見えたと思ったら逸らされてしまった。

どうしたのか聞こうかと思ったが『最近…。』とぽつりと呟いたので、私はエミリオの言葉を待つ。



「最近、周りからの反応は変わらないままか……?」



申し訳なさそうに、だけど言葉を発したエミリオの言葉に私は笑顔を見せて『大丈夫ですよ。』と答えた。

私の見え見えの嘘にエミリオは気づいていないようで、安心した。



「エミリオが目を光らせているから、私は安心してここで暮らせる。ありがとうね、エミリオ…。」


「…そうか。」



ほっと胸をなでおろすエミリオに私はそっと膝の上に乗せていた手をギュッと思い切り握り締めて笑顔を見せて話題をそらした。


今ある幸せを壊したくないが為の私の些細な嘘を彼は見ていないようで、本当は見ていたりする。

だから、私は嘘をついてでも彼と一緒にいる時間を大切にしたいと思うんだ。


蔑まれようと、妬まれようと、嫌われようと、疎まれようと、そんなの関係ないくらいに。

私は今が幸せだから。


いつかこの状況を私は覆して、彼との幸せな未来を描いていきたい。


今日も彼を充電するように、私は彼との時間を大切にして、彼を目に焼き付けて、明日またこうしてお話できる時間まで私は耐え抜いてみせる。



「エミリオ…大好きですよ。」


「ああ…僕もだ。」



私にだけ微笑んでくれるその表情は、私にとってはかけがえのない宝物だから。










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相互記念ということで、なつめ様に捧げますリオン夢でした。
…なんだか、本当に申し訳ないです。全然甘くないですね。最後結局シリアスな感じになってしまいました。この後はリオンちゃんと理解してしっかりと守ってくれます。素晴らしい思い合いを描いたつもりではいますがどうしてもこうなってしまう悲しい事態です…。と、気を取り直して遅ればせながら相互ありがとうございました!
20130114なぎさ






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