▼ アサシンブレード
ジョヴァンニがエツィオに残したものはアサシンの装束だけではなかった。傷だらけの籠手と折れた刃、それから暗号だろうか意味の分からないことが書かれた紙きれ。使い道のわからないそれらをレオナルドのもとへ持って行くようパオラに言われ、エツィオとなまえはフィレンツェの街を用心深く歩いた。
工房をノックするとレオナルドは今や手配犯であるふたりを笑顔で招き入れ、無事と再会をめいっぱい喜んでくれた。事情を話すと今までやっていた作業を中断して、ふたりを椅子に落ち着かせるとさっそく紙きれと向き合った。
「これは、暗号文ですね…実に興味深い!こちらの籠手も不思議だ、とても古いもののようなのに作りが先進的で…あるいは、今の技術よりも進んでいるかもしれませんよ」
「そうなの…?」
なまえは隣に座るエツィオと目を合わせたが、エツィオは肩を少しだけあげただけでわからないと表現した。レオナルドはすでに自分の世界に入り込み、紙きれを指でなぞりながら何かをぶつぶつ呟いている。
暖かな部屋でエツィオが眠りの船を漕ぎ始めたときだった。
「わかったぞ!」
「きゃあっ」
「うわっ」
急に手を打ったレオナルドになまえが驚き、彼女の上げた声にエツィオが目を覚ました。そんなことすら気がつかないレオナルドは、紙とペンを持ってくると、癖のある文字で何かをメモしだした。
「文を入れ替えて…3番目の文字だけを読むのか。エツィオ、なまえ、これはどうやら暗殺の武器の設計図みたいですよ」
「暗殺の武器だって?」
「ええ。この紙きれはどうやら写本の断片のようです。古い冊子本を手書きで写したものみたいですが、他にはお持ちでないんで?」
「うん、それしかない」
なまえの返事を聞いて「それは残念」とレオナルドは肩を落とした。だがすぐに顔を上げると腕まくりをし、籠手と刃を目の前に揃えた。
「レオナルド、まさかきみ、修理できるのか?」
「ええ。設計図がありますから。何か問題でも?」
「いや、暗殺用の武器なんだろ。おれはてっきりきみは平和主義だろうと思っていたから」
「わたしは興味があれば何だってしますよ」
けろりと言ってレオナルドは作業に取りかかった。なまえは椅子に座り直し、輝いて作業をはじめる友人の背中を見つめる。エツィオも同じく興味深げにして座っていたが、いつしかまた眠りに落ちていた。
「エツィオ、起きて!」
「あ?ああ…」
すっかり寝入っていたエツィオはなまえの声に目を瞬かせた。
「ほら、見てください!」
レオナルドが自慢げに腕を広げ、エツィオを急かしている。あくびをかみ殺しつつ興奮ぎみなふたりの視線の先を辿った。机の上にはまるで新品のようになった籠手がある。
「さあどうです。ローマ人の甲冑と同じようにつや消しに仕上げてみました。光に反射してしまうと、敵に見つかりやすいですからね」
「ね、すごいでしょう!」
嬉しそうにするなまえに頷いてエツィオはその武器を持ってみた。籠手にはバネ仕掛けの短剣が納められており、ちょうど手首の上で隠れる。手首を曲げれば刃が飛び出し、切りつけたり。突き刺したりできるだろう。
「すごいな、本当に暗殺の武器じゃないか」
「いいアイデアが閃けば、それがなんであれ、わたしは形にしたくなるのですよ」
レオナルドはそう笑いながら道具箱から金槌とノミを取り出した。
「では、この板の上に薬指を置いてください」
レオナルドの意図がわからずエツィオとなまえは眉をひそめた。
「何をするつもりだ?」
「その指を切り落とすだけですよ。刃の出し入れに邪魔になりますから」
「えええ!?」
突拍子もない発言にふたりは腰を抜かすほどに驚いた、だがレオナルドは至って真剣な表情をしている。エツィオはまぶたを閉じ考えた。判事アルベルティ、父を裏切り父と兄弟を殺した冷酷非道ぶり、あの男に復讐できるなら指の一本を失ったってかまわない。
アサシンブレード
(…よし、やってくれ)
(えっ、ちょっと待ってエツィオ!)
(そうだ、肉切り包丁を使うべきかも。そのほうが一気に切断できますから。では指を置いて…さあいきますよ!)
prev / next
戻る