▼ きみがすき
彼は歩くのが早い。
私より足が長いからか、元から顔を上げて前を向いてピシッと歩く人だからか、はたまた私が単に遅いだけだからかわからないけれど…。
私はいつでも彼の背を追いかけるようにして歩いていた。
「亮!」
呼び止めてみたら、ようやくこちらを向いてくれた。ひとつも表情を動かさずに、くるり。ただそれだけでも嬉しくて笑みが零れてしまう。
て…重症だぞ、私。
「どうした?」
優しい響きの低すぎない声。緑がかった青い髪をした彼は、白い制服が誰より似合っていて格好いいと思う。
「…、なんでもない」
「…?」
「ご、ごめん」
「いや、気にするな」
私の態度に不思議そうにしていた彼だったけれど、少し頷いただけで済んでしまい、また歩き出す。
そんなところも…
「なまえ」
「えっ?わぶ!」
唐突に、前を歩いていた彼は思い出したようにぴたりと歩みを止めた。急のことに反射できなかった私は、亮の背中に思いきり鼻をぶつけてしまった。
地味に痛いぃ…。
「ど…したの、亮?」
「すまない。大丈夫か?」
「うん、私も不注意だった。で、どうしたの?」
「………」
「亮?」
「……忘れた」
「え?」
「……何を言おうとしたか忘れた」
「………ぷっ!」
そんなまぬけなことを無表情で言ってしまうんだ。これがカイザーと呼ばれるアカデミアで最も尊敬されてる人の一面なんて、誰が想像するだろう。くすくす笑う私に構わず、頭をひねりながら歩き出す亮。
私も合わせて歩き出す。
なんだか、その背中を追いかけることができるだけで幸せだと思った。
(…待って)
なんとなく、特に意味もなく引き止めたくなって、白い制服の裾をぎゅっと握ってみた。気がついた亮は顔だけを向けて小さく笑いかけてくれる。
あ、私…やっぱり…
「亮のこと、大好きだよ」
まるでふつうに話しかけるように言ってみると思ったより言えるものだと思った。だけど、言ってしまってから恥ずかしくなって「あ」と口に手をあてるが時はすでに遅い。
次の瞬間、 ごちっ!
驚いて立ち止まった亮の背中にまたまたぶつかった。
「いったぁ…」
「す、すまない。大丈夫か?」
いつもあまり表情を動かさない亮が、目を泳がせて言っている。
「…あはっ。うん、大丈夫」
私は今すごく、幸せ。
きみがすき
(おやまあ。亮くんとなまえったらラブラブ。羨ましいね、藤原)
(いや煩わしい…)
ぼんやりカイザーが大好きです。
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