Happy Ender


4月9日
入学式だった。両親は来なかった。
一人校庭でぼんやりしていたら、同じく一人の女の子に声を掛けられた。俺の頭に桜の花びらが乗っていたらしい。笑われた。

5月14日
隣の席の奴が勝手にぺらぺらと話しかけてくる。クラスのどの女子が可愛いだの、そんな話をしてくる。適当な相槌を打ちながら教室を眺めていたらなんだか見覚えのある女の子がいて、ついつい凝視してしまった。入学式の時の桜の女の子だった。目があってしまって慌てて逸らした。

6月23日
梅雨で雨続きだ。そろそろ暑くなってきたのもあってうざったい。テスト勉強で居残っていた帰りに小林さん(入学式の女の子)を見かけた。傘が無くて困っている様だった。声をかけるか悩んでいる間に、彼女の女友達が来て、傘に入れて貰っていた。

7月30日
蒸し暑くて仕方がない。すっかり夏だ。
塾の夏季講習の帰りに、小林さんを見かけた。私服姿だった。私服なんて夏休みなんだから当然なのに、かっと心臓が早くなった。……かわい、かった。
店先のラジオから流れてきた恋愛ソングの歌詞のせいだと思う。それか熱中症。きっとそうだ。

8月17日
塾からの帰り道についつい彼女を探してしまう。そう毎回いる筈がないのに。俺は何をしているんだろう。勉強をしないといけないのに。本当に、何をしているんだろう。

9月24日
文化祭の準備期間が始まって授業が無くなった。いつも話しかけてくる奴が、これを機に付き合い出すカップルが多いから自分にもチャンスがあるかもしれないとはしゃいでいる。大概の奴は喜んでいるけど、俺はもっと勉強をしなくちゃならない。兄さんよりもいい大学に入らないといけない。
……小林さんと同じ作業グループになれたのは、たまたまで、だから、浮かれちゃいけない。

10月21日
頭が痛い。気分が悪い。吐いたからか未だに胃がむかむかする。後夜祭を二人で抜け出してキスをしていたのを見てしまった。彼女の嬉しそうな顔が焼き付いて消えない。どうして、あんな奴なんだ。休み時間のたびにクラスの真ん中でげらげら下品にやかましく騒音を出すだけの、知性のかけらもない男が好きなのかよ?あんなのが小林さんの好み? 趣味が悪過ぎる。俺の方が頭が良いのに。俺の方が、あの子を好きなのに。俺の方が先に好きだった。俺の方が先に好きだったのに!! どうして。どうして!!

11月9日
むかつく。彼女も彼女だ。どうしてあんな男に微笑みかける。どうしてあんな男の隣にいる。どうかしてる。登校するたびにあいつに媚びた目で声で仕草で接する彼女を見なきゃいけないのが耐え難い。
勉強をしないと。勉強して兄さんよりもいい大学に入ったら母さんたちは今回こそきっと俺を褒めてくれるはずだ。俺の事を気にかけてくれるはずだ。

12月18日
今年の冬は暖冬らしい。それでも兄さんは体調を崩しがちで両親に心配されていた。
勉強に手がつかない。なんだか今年はクリスマスに浮かれるカップルがやけに目についてイライラする。嫌でもあいつらを思い出す。どこまでいったんだろう。手は繋いだ?キスはした?もうあいつと体を重ねたりなんてしてたりするの? 想像して思わず教科書を床に叩きつけてしまった。ああ、もう、本当に気が狂いそうだ。

1月25日
致死性の高い新種のウィルスが流行っているらしい。なんでも、最初は風邪のような症状で徐々に高熱が出、それが緩やかに下がっていくと同時に昏睡状態になりそのまま死ぬとか。
あいつ、かかって死なないかな。そうすれば優しい小林さんはきっと、絶対に悲しむ。ぐちゃぐちゃに顔を汚して泣く彼女の肩をそっと叩いて慰めて励まして、優しくすれば俺を好きになって…とか、柄にもなく想像した。……俺のものになった小林さん、というだけで今まで生きてきた中で一番高揚する。ひどく泣かせてみたいし、ひどく大事に愛してみたい。

2月8日
兄さんが発症して、よくわからない政府の人に連れて行かれた。父さんも母さんもそれからずっと元気がない。リビングから、なんであの子が、とすすり泣く声が聞こえた。死ぬなら俺の方が良かったってことだろう。
兄さんの部屋に置き手紙が残っていた。発症してる自覚があったみたいで、死期を悟ったようなメッセージが家族一人一人に向けて書いてあった。俺には「母さんと父さんを困らせるなよ」。思わず笑ってしまった。お前はどこをどう見たらそんな言葉が残せるんだ。俺を見下しすぎじゃない?父さんも母さんも秀才なお前しか見てないんだから俺があの二人を困らせることなんてできるはずがないだろう。腹が立ったからびりびりに破いて捨てた。
何でだろう。無性に小林さんの顔を見たい。会いたい。あんなに憎いのに。

3月26日
母さんがいなくなった。だいぶ追い詰められていた様子だったから無理もない。
母さんがいなくなってから父さんは毎日酔い潰れて仕事にも行かない。まぁ、もう社会なんてほとんど機能してないようなものだからいいか。感染者が爆発的に増えてから、あちこちで終わらせようとしている人を見かける。学校に登校する人もだいぶ少なくなったなと空席が増えた教室を見ながら思った。
世界が終わるなら何がしたいかと、最近は静かなアイツに聞かれた。小林さんを高野の前でぐちゃぐちゃに犯した後に彼女を殺して俺も死にたい、なんて思った。寝てたいと答えた。

4月6日
小林さんを誘拐した。意外とすんなりとできてしまった。無防備すぎて心配になる。……誘拐犯が言う台詞じゃないけど。
タイミングが良いのか悪いのか、熱は引きつつある。持って5日、いや、3日だろうか。好きだったんだ。好きなんだ。キミが好きでたくさんたくさん苦しんで傷ついておかしくなったんだ。もう人生も終わりだし、だから、最後くらいいいだろ。俺をおかしくさせたキミが悪いんだ。

4月9日
桜が舞っていて、綺麗な日だった。
小林さんと出会った入学式の日のような快晴だった。
ずっと好きだった、ごめんと今更ながら謝った。彼女は泣き腫らした目で俺を睨んで、許さないと言った。俺は笑った。最後の最後でやっと、こっちを向いてくれたのが心の底から嬉しかった。俺は今、幸せだ。






[戻る]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -