繧「繧ォ繧、繝ハジケタ¿


ひらひらと桜吹雪舞う公園の中、私はあの人と出会った。
家の近くに大きな公園があるのは知っていたが、出不精の私にはそんなに興味が無くて、でも、今の時期は桜が見ものだと聞いて、なんとなく出かけた先で、あの人に。

「こんにちは。お嬢さん、今日もお会い出来て嬉しいです」
たれ目をそっと細めて柔和に笑む、その人の名前は桑原くわばらさん。数日前に出会って、そして出合い頭にナンパ……?のようなものをしてきた人だ。それでもまぁ、こうして会いにに来てしまうのは、桑原さんから放たれる無害そうなはんなりとしたオーラのせいだろうか。
「こんにちは、桑原さん。さて、例のものを返してもらえますか?」
「おや、来て早速要件を、だなんて相変わらずつれないお人ですねえ」
うふふ、とお上品に笑うと彼は懐からスマホを――先日私がこの公園のベンチに置き忘れてしまったスマホを――ちらりと見せびらかしながら、桜並木の先を軽やかに歩く。
「っ、ちょ、っちょっと」
私の制止の声を素知らぬふりをして、桑原さんはひらひらと歩いていく。現代社会では珍しい和装も、男性なのに伸ばしている髪も、この桜雨の中に溶け込んで、なんだかタイムスリップしたような気にすらなった。まるで、実体のない儚い霞でも掴もうとしている、ような……――
「はい、掴まえました」
伸ばした私の手を静かに受け止めて、桑原さんが嬉しそうにそう言う。
「え?掴まえようとしていたのは私ですよ?」
「いいえ、わたくしがあなたを捉えたのです」
「……んん?」
こうやって、桑原さんは時々意味の分からないことを言う。どういう事なんだろう。何かの哲学? 考え込んだ私の横で、彼はじっと桜を見上げている。さわ……と静かに花弁を散らす風が、一緒に彼のつややかな黒髪をも揺らした。とびきり綺麗な人、なのにな。
「ねぇ、小林さん。桜の木の下には、死体が埋まっているから血を吸って桜は薄く色づくのだという話を知っていますか?」
……これがなければ。
「……一応すべて聞きますが、答えは“いいえ”ですよ」
「もう。せっかちなお人なんですから。一緒に埋まりたいって結構素敵な口説き文句だと思いませんかぁ?」
「ちっとも。これっぽっちも」
「そんな……相変わらず冷たいんですから。……ふふ」
何故か嬉しそうに頬を赤くして身をくねらす彼は、私と死にたいらしい。

三日前。
桜吹雪の中で目が合った彼は、私の方に歩いてくると優しく微笑んでこう言った。『そこの麗しいお嬢さん、よろしければわたくしと一緒に死んでいただけませんか?』と。意味が分からなかったがとりあえずまだ生きていたかったので断った。そうしたら食い下がってきて、今の何とも言えない関係に至る。
「でもね、小林さん」
そっと、掴まれたままの手が彼の胸元に置かれる。
「っ、ちょ」
「あなたと目が合ったとき、ぱちり、と。ここで何かがはじけたのは、確かなのですよ」
顔を寄せ、内緒話をする様な声で囁く彼の笑みは、見惚れてしまいそうな程美しくて、少し背筋が冷えるほど、美しくて。思わず、勢いよく手を引いた。
「そ、そういうのいいですから! スマホ! 返してください!」
「えー……」
「『えー……』じゃない!」
仕方ないですねぇ、なんて言いながら桑原さんはようやく懐からスマホを出して……
パシャリ、と内カメラで私と自分のツーショットを撮った。
「はい。お返しします」
「……今の撮る必要ありました?」
「ふふ、あなたとわたくしの思い出を残しておきたくて、つい」
嬉しそうに笑う彼にじとっとした目で眺めながら、ふと画面に映った時間が友人との約束の時間ギリギリなことを示していた。
「うそっ、もうこんな時間?! 行かないと」
「お忙しいんですねぇ」
のほほんと言う桑原さんをあなたのせいですからね、といった風に睨みつけながら、私は急いで駅へと向かう。
「――小林さん」
「もうっ、なんですか!」
「また、来てくださいますよね」
ああ、またその顔だ。私はその顔に弱い。笑ってはいるけど、少し、寂しそうな顔。
「わたくし、待ってますから」
「き、来ますよ。たぶんね!」
そう叫んで、私はいよいよ駅に向かって走り出した。





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小林:ごめん、ちょっと遅れそう!
miki:おっけー。だいじょーぶ!
miki:あんたなんか最近ついてないんでしょ? 車に轢かれそうになって怪我したり、この間だって駅のホームで立ち眩み起こして危なかったんでしょー?ゆっくりでいいから気を付けて来なよねー
小林:ありがとうー! ごめんね!!
小林:知り合いに写真撮られたりして中々話してもらえなかったの〜(汗)
小林:[小林が写真を共有しました]
miki:おぉ、綺麗な写真だね
miki:手前にいる人がめっちゃブレてるのが少し怖いけどw
小林:え? 私の画面からは普通に見えるけど……











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