3日後世界は終わるから


……背中が痛い。骨に響く痛みの不快感で、重い目蓋を僅かに開く。ぼやけた視界に映るのは、見知らぬコンクリート打ちっぱなしの部屋。両手両足が縄で縛られていた。
あれ、どうして? なんで? 私、ここに来るまで何をしていたっけ……?
少しでも考えようとすると強い睡魔に襲われて、思考がかき消される。ぼんやりとしたまま瞳を開けていると、ゆらゆら奥で何かが揺れて
「……もう起きたんだ。薬、弱かったのかな」
棒の揺れが……棒に見えていた組まれた脚が、立ち上がって、こちらに向かってくる。
「だ、れ?」
顔を動かす力もなく、酷く掠れた声しか出ない。私の前に屈み込んで顔を覗き込んで来たのは、クラスメイトの清水くんだった。彼とは話したことも接点もない。どうして、清水くんが?
「…………」
じっ、と清水くんは何も言わずに私を凝視している。その瞳からは何の感情も読み取れなくて、不気味で、こわい。耐えきれずに目を逸らすと、ふっ、と清水くんは堪えきれないというように笑い出した。
「あは、ふふ、ふふふふ、あはははは!」
「なんで、笑っ、てるの……?」
こわいよ、清水くん。この状況と不釣り合いなその笑顔が、怖い。
「無様だね、可愛いよ。小林さん」
そう言いながら、清水くんは手にしていたスマホでパシャリと写真を一枚撮る。
「や、やめ、て」
「やだ。やめないよ」
意味がわからない。どうしてこうなっているの。彼は上機嫌な様子でスマホを弄っていたが、ふと動きを止める。
「……は? なに勝手に死んでんだよクソが」
「……っ、」
低く吐き捨てられたその独り言は、クラスで見る時のような、静かでおとなしい清水くんの様子じゃ、ない。
「あーあ。死んじゃったんだってさ、小林さんの彼氏」
「へ……?」
なに、言って……?
「ヤケになって車暴走させたジジィに轢かれてミンチになっちゃったらしいよ。俺がキミをぐちゃぐちゃに犯す所目の前で見せてやりたかったのにそっちが先にぐちゃぐちゃになっちゃってどうすんのって感じ」
何を言っているんだろう。嘘だ。 高野くんが死んだなんて、清水くんが私を動揺させるために吐いている嘘だ。
「本当だよ」
私の思考を読んだみたいに、清水くんはにぃと口角を上げる。
「小林さんも知っての通りウィルスで世界終わりかけてるじゃん? 経済やら社会やら崩壊してから無敵の人になっちゃってヤケな自殺する人増えたの、知ってるでしょ?」
ほら、と清水くんが見せてきたのはネットニュースの映像で、煙を上げ燃え盛る車の下から見える靴は、確かに、高野、くん、の……
「−−っ、ぅ」
「あっは!泣いちゃった!泣いた顔もかわいーね」
パシャリ。また写真を撮られる。
「な、に、なんで……」
なんで、こんなことするの。清水くん。
「なんで? それは、」
ふ、と耳元に唇を寄せられて、甘い声で彼は囁いた。
「君が好きで好きでだぁい好きで−−憎くて仕方がないから」
「ぇ……」
思ってもいなかった告白に揺らいだ心が、ありったけの嫌悪を込められた声で一気に凍りつく。どうして?私が清水くんと話すのはこれが初めてで、こんな感情を向けられるような記憶なんてないのに。清水くんは身を引くと私が目が覚めた時に座っていたパイプ椅子を横にずらす。
「さっきも言ったけどね、世界が終わるなら死ぬ前に君を高野の目の前で犯して殺してから俺も死のうと思ってたんだよ。車で突っ込んでったジジィとおんなじよーな犯行だね」
パイプ椅子の後ろに並べてあるものが見えた。見えてしまった。
「でも、先にあいつが死んじゃった」
麻縄、ガムテープに包丁、練炭−−
「だからさ」
−−ローションにローター、バイブに
「ひ、っ、こ、こないで! 」
何をしたいか、今、何をされそうになっているのかは見当がついてしまった。必死に身を捩って彼から距離を取ろうとするものの、後ろには無情に立ち塞がる壁しかなくて。
「俺、世界が終わるまで、君を犯すことにするよ。その時がきたら一緒に死のう」
にっこり。瞳を細めた清水くんは手に持っていた瓶の薬を一気に煽ると、私に口付ける。
恐怖のあまり飲み込んでしまったそれの味は、清水くんの告白と同じくらい甘ったるくて、不愉快だった。







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