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親愛ぱらのいあ



今日こそ、今日こそはと、しえみは意気込む。
今まで燐に付いて回っていたから、自然と彼女とも行動を一緒にしていたが、
まだしえみはきちんと彼女、つわぶきに言っていないのだ。
―――お友達になってください、と。

しえみにとってはとても大事なことなのに、自分の話しをきちんと聞いてくれて、
とても優しくしてくれるつわぶきについ嬉しくなってしまい、そのことをすっかり忘れていた。
―――だから、今日こそ、今日こそは面と向かって言わなければならない。

「今日の授業はここまで。では、皆さん。また明日」

今日最後の授業終了のチャイムが鳴り、雪男の挨拶のあと、皆がそれぞれ帰る準備を始める。
それはもちろんつわぶきも同じだ。早く、彼女が立ち去る前に言わなければ。
しえみは唾を飲み込み、大きく息を吸った。

「なぁ、つわぶき。さっきの授業、」
「―――つわぶきちゃん!!!!」

大声の勢いからか、ガタっと音を立てて、しえみは席から立ち上がっていた。
燐の声を遮ってしまったが、しみえはいっぱいいっぱいでそれどころではなかった。

「なんでしょう、しえみちゃん」

彼女は少し驚いたような表情で、ぱちくりと瞬きをした。
いつもはしえみが見上げるはずが、今はつわぶきがこちらを見上げている。

―――いや、しえみを見ているのは彼女だけではない。
つわぶきの後ろで目を見張っている燐、帰り支度をしていたであろう出雲と朴。
教室から出ようとしていた勝呂、志摩、子猫丸。それから教壇にいる雪男。
皆が皆、大声を発したしえみに驚いて注目していた。

「あ、あのねっ!そのっ・・・!!」

みんなが自分を見ている。
そのことに気づいてしまえば、かぁっと顔に熱が集中し、いつもの赤面症が出てしまう。
さっきまでの意気込みもどこかへ行き、途端に気の弱いしえみに戻る。

「その、」

前を向いていられなくて、俯いて着物を握る。情けないことに涙がこみ上げてくる。
どうして自分はいつもこうなんだろうかと、溜まった涙が瞳から溢れ出そうとしたその時、
がたりと音がした。

顔を上げれば、つわぶきが席から立ち上がっていた。
しえみよりも高い位置にある顔。いつもの目線だった。

「―――しえみちゃん。場所、移そうか」
「え、あ、」

彼女は戸惑うしえみの手を引いて祓魔塾をあとにする。
握られた手から伝わる体温に、いつの間にか涙は引いていた。





つわぶきは正十字学園にある噴水の前で止まり、しえみの手を離した。
いつもは生徒で賑わうこの場所も、放課後の今ではしえみと彼女の二人しかいない。
噴水の水だけが、絶え間なく流れている。

「ごめんね、つわぶきちゃん・・・」

しえみの口から出たのは謝罪だった。
自分のせいで彼女にまで恥ずかしい思いさせてしまった。
それなのにつわぶきは、

「なんで?」
「え・・・?」
「どうして謝るの?」

かくりと、彼女は首を傾げるのだった。

「どうしてって・・・。私のせいで、その、恥ずかしい思いさせちゃったし、」
「そう?大きな声にはすごくびっくりしたけど」
「え、びっくりしてたんだ・・・」
「うん」

頷くつわぶきの表情は無表情で読み取れない。
あの時だって多少は驚いているのは分かったものの、彼女が言う"すごく"までは全然だった。

「私ってほんと表情に出にくいみたい」

つわぶきはそう言って、自分の両頬を引っ張ったり、上下に動かす。
相変わらずの無表情ではあるが、綺麗な顔が面白く歪む。

「ぷはっ!やだ、つわぶきちゃんったら!」

ついしえみは堪えきれずに笑ってしまう。

「やっと笑った」

つわぶきは顔をいじるのを止め、柔らかい表情をした。
まさか自分の為を思ってとはっとするしえみに、彼女は続けて言った。

「それで―――何か私に話しがあるんじゃないかな?」

つわぶきの言葉にしえみはどきりとした。しかし彼女に促された今こそ、言わなくては。

「う、うん!あのね・・・!!」

震える声がどうにかしようと深呼吸を繰り返す。
たった一言、口にするのにもこんなにも時間がかかる自分に嫌気が差すが、
それでもつわぶきは待ってくれている。いつもそうだった。
しえみがしっかりと言葉にするまで耳を傾けていてくれた。

しえみは意を決した。

「私とお友達になってください!!!!」

はぁはぁと、しえみは肩を上下させる。ついに、ついに言った。
けれどそこでふいに、彼女が拒否したらどうしようという不安が襲った。
しかし、その不安は意外な形で裏切られた。

つわぶきはぱちぱちと瞬きを繰り返してから、

「―――私、てっきりもう、しえみちゃんとはお友達だと思ってた」



2015.1.4