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運命のアジェンダ



燐の彼女の第一印象といえば、"綺麗な髪をしている"、だ。

―――正十字学園の入学式。建物や施設に一人興奮し、自分の教室へとやって来た頃、
その興奮も大分収まり、燐は何気なく席の隣へと視線をやった。隣は女子。
肩甲骨を覆い隠すほどの長さの黒髪が、暖かな春の日差しを受けて不思議な光を放っていた。
ぴしっと伸ばした彼女の背筋と同様に髪は真っ直ぐで、細い。
燐は素直に綺麗な髪だなと思った。

教師の話しが終わり、彼女が席から立ち上がる。黒髪がさらりと揺れて、また別の輝きを
見せた。彼女の髪ばかりに気を取られて顔を見ていなかったが、椅子から浮く彼女の
体に釣られるように視線を動かし、そしててっぺんで止まる。
―――燐はまたも、綺麗だなと思った。それから、背が高い。

すっと通った鼻筋。健康的な肌色。横顔からでも充分、その綺麗さが分かった。
すらりと伸びた四肢はまるでモデルのようだ。背が高いといっても、さすがに弟ほど
馬鹿デカくないのだが、自分と同じぐらいはあるんじゃないかと燐が思っていれば、
彼女と視線が合った。燐はびくぅっと体を揺らしながらも、彼女から目を外さない。
彼女の正面からの顔。やっぱり綺麗だった。
瞳はどこか眠たげな黒目で、長い睫毛がそれを更に助長している。

彼女は燐を見て、一つ瞬きをした。

「私の顔になにかついてる?」

こてんと、人形のように彼女は首を傾げる。まさか彼女から話しかけられるとは
思ってもいなかったが、これはチャンスだと燐は何か言おうと口を動かす。
これをきっかけにして、彼女と友達になろうと思った。

―――しかし、躊躇ってしまった。
ただでさえ頭に血が上りやすく、すぐに手が出る自分だ。加えて悪魔の力に覚醒してしまった。
前以上に自分を見失いやすく、力の制御が出来ない。正直、怖い。
"悪魔"と罵られ、人から忌み嫌われるのが。

そうして燐が何も言えずにいると、彼女との間に壁が出来た。

「ねぇねぇ、安楽岡さん」

いつの間にか彼女の周りを女子達が囲んでいた。
中心の彼女は、安楽岡は、やはり背が高く、取り囲んでいる女子達より、頭一つ分も
大きかった。

「安楽岡さんって、背、高いよねー。身長いくつ?」
「脚も長いし、髪の毛も綺麗ー!」
「モデルみたいでカッコイイねー」

と、彼女らは安楽岡の返事などお構いなしに次々と自分達がくっちゃべる。
でも、それを見て燐は、これでいいんだとほっとした。
問題のある自分より、同性の、そして普通の少女である彼女らと一緒にいた方が、
安楽岡の為だ。

未練のようなものが無くなった燐は、鞄を持って席を立つ。
去り際にちらりと見た彼女との目線は、自分と一緒だった。



―――そのあと、まさか祓魔塾で再会するとは思ってもみなかった燐であった。



2015.1.4