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高尚ヒエラルキー



―――目の前には三人の女子。困ったなぁと、雪男は頬をかく。
学校の授業が終わり、さて次は教師として祓魔塾に行かねばと雪男が歩いていたところ、
この三人の女子生徒に声をかけられ、捕まってしまった。

彼女たちはなかなか話しを切り上げてはくれず、かと言って女子が苦手な雪男から
切り上げられるわけもなく。時間だけが過ぎて行く。しかし雪男に時間はない。

授業の準備もあるというのに・・・。どうしたものかと、そっと辺りを見回す。
せめて兄でも通ってくれれば、抜け出せる口実になるのだが、
そう簡単にはいかないようだ。

―――けれど、兄の代わりに目が合った人物がいた。
女子の中でも一際目立つ、高い身長の彼女、そして祓魔塾生でもある安楽岡つわぶきだ。
とは言え、目が合っただけでどうにもならない。
雪男から話しかけようにも、なんと声をかけたらいいものか。
きっと、つわぶきはそのまま去ってしまうだろうと雪男が諦めかけたのだが、彼女は視線を
合わせたままこちらへやって来た。

雪男と対面していた女子たちは、つわぶきの登場にやや驚く。
そうしてつわぶきは雪男の目を見続けてそっと言う。

「雪男くん、見つけた」

いつも以上に単調な、抑揚が感じられない声だった。

「放課後、勉強見てくれるって約束したのになかなか来ないから探したよ」

つわぶきは無表情のまま、そう言い切った。―――もちろん、約束などしていない。
けれど雪男には、つわぶきが自分を助けようとしてくれているのが分かった。

「あ、ご、ごめ、」
「ちょ、ちょっとアンタ!いきなりなんなのっ?」

雪男の言葉は女子生徒の一人に消されてしまった。

「私たちが話してたんだから・・・!」
「そ、そうよ!そうよ!」

他の二人も尻込みながらつわぶきに向かい合う。
彼女の無表情と、加えて高い背丈が、妙な威圧感があって怖いのだろう。

「それは・・・ごめんなさい。でも、先に約束したのは私だから」

じぃっと、つわぶきが彼女らを見下ろせば、三人はその視線に縮こまった。
つわぶきは目線を外して、今度は雪男を見る。

「雪男くん。行こ」

彼女は雪男の腕を引っ張って歩き出す。

「う、うんっ。・・・すみません、そういうことなんで。また今度っ」

雪男はつわぶきに引っ張られるようについて行った。





「・・・安楽岡さん、ありがとう」
「どういたしまして」

二人でしばらく歩いたあと、つわぶきは雪男の腕を離した。

「でも、どうして助けてくれたの?」

雪男は気になって聞いた。燐とは高校のクラスも一緒で、仲が良い彼女だが、
雪男とは兄を挟まなければほとんど接点がない。
つわぶきを冷たい人間だとは思っていないが、助けてくれたのが不思議だった。

彼女は淡々と答える。

「雪男くんが困った顔で私を見たから」
「えっ・・・そんなに困った顔してたかなぁ・・・」

思わず雪男は自分の顔に触れる。内心では困っていたものの、全く自覚が無い。

「うん。困ってた」

かくりと、彼女は機械のような動きで頷いた。

「・・・でも、女の子たちには悪いことしちゃったなぁ」
「僕が悪いんだ、安楽岡さんは気にしないで」

雪男は苦笑してみせる。どうにも、ぐいぐいと攻めてくる女の子はどうにも苦手で、
どう対応したらいいか分からず、さっきのように流されてしまう。

「嘘もついちゃったし」
「―――いや、あながち嘘でもないよ」

つわぶきは、ぱちりぱちりと瞬きをして不思議そうな表情を浮かべたが、
直ぐに「あぁ、そうだった」とつぶやいた。

「今日もお願いします、雪男先生」

そう小さくお辞儀をして顔を上げた彼女の顔は、普段より柔らかい、人間味があるものだった。
少し、笑っているような気もするが、雪男には判別出来ない。

「―――はい。お願いします」

今度、燐に聞いてみようと思った。



2015.3.15