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レッドタイガーアイクォーツと原石  





ガスが尽き、飛ぶ事も叶わなくなったミカサは、巨人近づいて来ているというのに、
地面に膝をついたまま微動だにしなかった。

―――エレンが死んで、佳奈子の行方は分からない。
そんな中でミカサが冷静に生きるという行動が出来るわけがなかった。
エレンと佳奈子がいてこそ、ミカサが生きる意味があり、また目的だった。
それ失ったのなら―――最早死ぬしかない。

この世界は残酷だ。そして、とても美しい。
二人と過ごした日々が、思い出が、ミカサの脳裏に蘇る。充実した、幸せな一生だった。
後方から別の巨人が迫って来ているが、ミカサは自分の生を振り返りただただこう思う。
いい人生だった―――

そうふっと微笑んだミカサの目に、手に持っていた折れた刃が映る。
そしてそれが―――あの時の血濡れたナイフと重なった。ミカサの人生の転機とも言えるあの日が、
冷たく寒い過去が思い出される。

男に首を絞められているエレンがミカサに向かって叫ぶ。

―――戦え!

それから、佳奈子の声。

―――ミカサ、お願い。戦って、生き抜いて・・・!

ミカサは迫る巨人を睨みつけて立ち上がった。そうだ、戦わなければ。
生きる為には戦わなければいけない。戦いもせずに諦めてはいけないのだ。
ミカサの頬を涙が伝う。死んでしまったら、もう二人の事を思い出す事さえ出来ない。
それに佳奈子はまだ死んだと決まったわけじゃない。まだ、希望がある。

だからここは何としてでも勝たなくては。そして、何としてでも生きる!

「うぁああああ!!」

ミカサは手を伸ばしてくる巨人に向かって吠えた。
―――するとそれに呼応するかのように、後方の巨人が目の前の巨人を殴り倒した。
ミカサはなにが起きたか分からず、呆然と見つめる。
殴り倒した巨人、その髪の長い巨人は、声を張り上げながら地面に転がった巨人に近づき、そして容赦なく踏む。
幾度も脚を振り上げ、ただひたすらに踏む。踏み殺す。

巨人が―――巨人を殺している。

巨人が巨人を殺すなど、そんなものはミカサは聞いた事がなかった。
しかし、困惑しながらもミカサは密かに高揚していた。まるでその光景は、人類の怒りが体現されたようだったから。

アァアアアアアアアア

髪の長い巨人の咆哮が辺りに響き渡る。―――その中でミカサは自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
ミカサと。大好きで愛おしい、あの声が、あの人が自分を呼んだような―――

「ミカサーーーー!!」

今度こそ、はっきりと鼓膜を震わしたその呼び声にミカサは振り返る。
途端、どうしようもないほどに涙が溢れ、視界が滲んだ。

「カナコっ・・・!!」

焦がれていた彼女の名前をミカサは喉から絞り出す。
佳奈子は立体起動で飛びながら徐々にミカサへと近づいて来る。
そして充分な距離まで来ると、ミカサに手を差し伸べる。
ミカサもそれに腕を伸ばし、飛んで来た佳奈子の手をしっかりと掴み、そのまま二人で建物の屋根へと上がった。

「カナコ・・・!よかった・・・!ほんとに、よかった・・・!」

ミカサはもう離すまいとばかりに佳奈子を強く抱きしめた。
柔らかな体と優しい匂いに、彼女が生きている事を確認出来て安心するばかりだ。

「・・・うん。ミカサも無事で、本当によかった」

そう言って、佳奈子もミカサを抱きしめ返し、優しい手つきで頭を撫でてくれる。
ミカサはそれが嬉しくて更に抱きしめる力を強めた。すると、彼女は「いたた・・・」と小さく呻く。
ミカサはそれにバっと瞬時に体を離し、佳奈子の姿を改めて眺める。一言で表せば―――ボロボロだった。

「カナコ、大丈夫なの・・・!?」
「・・・まぁ、切り傷とか打撲はあるだろうけど、折れたりはしてないから大丈夫。たぶん」

「あと、手足はついてるし」と彼女はへらっと力無く笑う。
その顔は頬に擦り傷が出来ていて、額にはうっすらと切った痕がある。
服も破けていたり、破けた箇所から覗く肌に血が滲んでいたりと怪我が多い。
佳奈子は骨折はしていないと言うが、きちんと医者に診てもらわないと分からない。

「急いで傷の手当をしないと・・・」
「待って、ミカサ。あなた、ガスがもうないんでしょ?」

立ち上がったミカサの手を佳奈子が引っ張る。

「・・・カナコのと交換して、私があなたを抱えて飛ぶ」

ミカサは屈んで彼女と目線を合わせる。

「誰か援護してくれる人がいないとそれは難しいよ。・・・そういえば他の人は?というか、補給班はどうしたの?
それにあの巨人は、他の巨人とはなんだか違うようだけど・・・」

佳奈子はちらりとあの髪の長い巨人に視線を投げた。

「補給班は任務を放棄して本部に立て篭っている。とにかくみんな、本部へ向かってる。
ガスを補給出来なければ、壁を登って撤退出来ない。・・・あの巨人は、何故か巨人を殺す奇行種―――だと思う」
「そっか・・・」

佳奈子は目を伏せる。そしてそれから、ミカサを真っ直ぐに見つめた。

「―――ねぇ、ミカサ。聞いて欲しい事があるの、」

佳奈子はミカサの頬をそっと包んで、

「"あの時の約束"通り、会いに来たよ。遅れちゃってごめんね」

そう微笑んだ。ミカサはその言葉に目を見開く。

『―――ミカサ、また会えるから。少し時間がかかっちゃうけど、次にあなたと会った時、私はミカサの事が
"分からない"かもしれないけど、会えるから。だから、約束しよう』


あの日、別れの時に佳奈子とそう約束した。―――その約束が、今こうして守られた。
再会出来ただけで嬉しかった。けれどその喜びはミカサだけのもので、表には出さなかったがずっとどこか寂しかった。
ミカサはぼろぼろと涙を零しながら、再度佳奈子を抱きしめた。

今度はそっと、優しく―――

「ずっと、ずっとあなたに会いたかった・・・」



2014.11.10(このあと、アルミンとコニーが合流)