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オレンジ・ムーンストーンよ導いて  





──ヒィズル国との会談の日。
出来上がったばかりの港で佳奈子達はヒィズル国の特使を迎えるために待機していた。

今日は海も穏やかで天気にも恵まれた。良い会談になればいいなと佳奈子は晴れ渡った空を見上げる。

「…ふぅ、」

ふと、ため息に似た小さな呼吸を耳にして佳奈子は隣へ顔を向けた。
そこにはどこかそわそわとした様子のミカサの姿があった。

これからやって来るヒィズルの特使、キヨミ・アズマビトがミカサの血縁者に当たる人物なのだとイェレナから聞いている。
島の外、外国にいたまだ見ぬ親族。きっと緊張しているのだろう。

「ミカサ緊張してる?」
「…うん、少し」

ミカサはマフラーに顔を埋めて佳奈子にちらりと視線を寄越した。

「…カナコは緊張してないの?」
「うん。まぁ、特には」
「すごい」

彼女は目を大きく開けて素直に感嘆する。
さすがだとミカサは佳奈子を褒めちぎるが彼女が思うほどのものではなく、緊張しなくていい根拠と自信があるからだ。

ミカサは確実な血筋関係があると分かっていて、もしかしたら自分もなにか関係があるかもと会談に
参加することになったが、いくら東洋と言えど純日本人の血筋の自分とヒィズル国の血筋が交わっているはずがない。
分かり切っていることだった。…逆にあったら困る。

だからどこか他人事のようで緊張する理由が皆無なのだ。

「ミカサ、私じゃ頼りないかもしれないけど隣にいるよ」

彼女の顔を見上げて安心させるように微笑む。
戦闘面ではミカサに頼りっぱなしだから、せめてそれ以外は助けになりたい。支えになってあげたい。
──自分が出来る限りのことはしてあげたいというこの献身的な思いに偽りはなかった。

瞳を煌めかせた彼女は髪が大きく揺れ動くほど首をぶんぶんと振った。

「そんなことない…!あなたほど頼りになる人はいない…!」

拳を握ってはきはきと語る頬は血行が良くなっていた。ミカサは濁りのない澄んだ黒い目を細めて微笑む。

「──カナコ。私はあなたが隣にいるだけで勇気が湧いて、なんだって出来る」
「ミカサ…」

大袈裟で誇張された言葉に聞こえるかもしれないが、目の前の彼女の場合は全て真実だ。だから少しむず痒い。
ミカサはいつも真っ直ぐな想いを全力でぶつけて来るから、それを真正面で受け止めるのは照れ臭くて困難だ。
受け止めて自分の中で咀嚼するのに時間がかかる。

気恥ずかしく思いながらもミカサを見つめ返していると第三者の声が割って入った。

「…二人ともイチャイチャするのは終わったあとでね」
「…ハンジさん」




2021.3.20