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エッグ・パール・トライアングル  





──子どもに舐められているというのは、ジャン自身嫌というほど分かっている。
そもそもが特別好かれたいとも思っていないわけで。子ども受けするような顔立ちではないのも承知済みだ。

しかし怖がられるのもなんだが、下に見られるというのは実に腹立たしい。
馬面だの、悪人面だの人を好き放題罵倒する彼らに我慢の限界が来れば怒鳴りはするものの、
どうにも面白がられているのが解せない。

子ども達のちょっかいを無視すればいいのだろうがなかなか出来ず、かと言って反応すれば思う壺であり、
最早どちらにしろ自分という人間は彼らにとって玩具の一つに過ぎないのだろう。
そんな一種の諦めをジャンは抱いていた。正直なところ、訓練兵時代のしごき、それから教官の罵声よりも疲れるものがある。

子ども達の玩具になってるのはジャンだけではない。
エレン、ミカサ、アルミンも散々に構い倒されているし、コニーとサシャに至っては一段階二段階ほど酷く、
完璧に舐められている(というか、同じ年代の子どもとして見られている)。

この孤児院で子ども達に下に見られず、言うことを聞かせられるのは二人だけだ。
まずは経営者のヒストリア、そしてもう一人は同年代からも慕われていた佳奈子だけである。
女王の身分となったヒストリアは滅多には来れないから、実質佳奈子一人のようなものだ。
彼女が側にいないと子ども達はやりたい放題でまるで収集がつかない。

「これ運び終わったらお昼かな」
「そうだな」

孤児院に届いた物資を確認する佳奈子に頷く。さすが女王が経営してるだけあって量は充分だ。
衣食住が整ってるここでひもじい思いをせずに暮らせる子ども達は幸せだろう。

二人でせっせと荷を運ぶこと数分。きゃっきゃと騒ぐ高い声の集団が近付いて来た。
言わずもがな孤児院の子ども達である。

彼らは佳奈子とジャンを見つけると、わぁっと駆け寄って来た。

「カナコ!」
「なにしてるの〜?」

主に彼女の周りを子ども達は無邪気に囲む。こんなところでもジャンと佳奈子の差が出る。
慕うようにして彼女に群がるのと違って、

「相変わらずの馬面だ!」
「悪人面!」

残酷なことにジャンには悪態しか付かない。本当に子どもは正直者で残忍だ。
人に悪態を付きながら引っ付いてくる子ども達を引きずるようにしてジャンは荷物を運ぶ。

「こらこらみんな。邪魔しないの」

見かねたらしい佳奈子が軽く注意を促す。
すると、彼らはぴたっとジャンにまとわり付くのも好き勝手に喋り倒すのも止めた。
つくづく人を見ている言動だ。

「そうだ。みんなが荷物運ぶの手伝ってくれるとお昼も早く出来そうなんだけどな〜」

そう彼女はちらっと子ども達を伺うように視線を投げる。
直接的に頼み事をするより、なにかを代価にお願いをするのは実に上手い。
普段、欲も無さそうな顔をしている癖に時折こんな風に他人を操るような振る舞いが目に入る。

「ほんと!?」
「手伝う!手伝う〜!」
「この間作ってくれたやつまた食べたい!」
「いいよ。作ってあげる」
「わーい!」

佳奈子の一言で目の色を変えた子ども達は我先にと荷物へと走っていく。
その中で年長の聞き分けの良い子に、重い物は無理して持たないように見ててくれと
言付けした彼女は相変わらず端々まで考えが及んでいる。

「現金なヤツら…」

ジャンが独りごちれば佳奈子は薄っすらと微笑む。

「そこが可愛いよ」
「お前は懐かれてるから言えるんだろ」
「ジャンだって人気者じゃない」
「お前な…」

明け透けにジャンはしかめ面をした。彼女の意地の悪い顔と来たら──完全な皮肉だ。
普段自分がしているのもあってしっぺ返しを食らったようで向かっ腹が立つ。

「カナコ〜!」
「はーい、転ばないようにね」

小さな荷物を持って自分達の横を過ぎていく子どもに佳奈子は笑顔で返す。
その姿がなんともすわりがよくて。そして懐かしさを感じて。

「──お前、良い母親になりそうだな」

特に意識せずに出たものだったが、隣の彼女の目を大きく張った様子にはっと気付かされる。
意味ありげなことを口走ってしまったかもしれないと。

佳奈子になにか言われてペースを乱される前に先手を打たなくてはとジャンは慌てて開口した。

「い、今のは忘れろ、」



2020.11.03