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サーペンテインの優雅さと気品と品格と【上】  





「カナコ〜!!助けて〜!!」
「わっ!ど、どうしたんですかいきなり・・・」

佳奈子がハンジの部屋のドアを開けるなり、彼女はこちらに駆け寄って来たかと思えば、
そのまま佳奈子の背に隠れてしまった。といっても、小柄な佳奈子の背に隠れ切れるはずがなく、
佳奈子が少し首を動かせば、自分の両肩をしっかりと掴んだハンジの顔がすぐ近くにあった。

「聞いてくれよ!モブリットがさ〜!!」

目を潤ませた彼女がずいっと顔を近づけてくる。が、それもすぐに離れていった。
モブリットがハンジの首根っこを掴んだ為だ。

「分隊長!風呂に入るのが嫌だなんて駄々をこねるは止めてください!!」

「もう幾つだと思ってるんですか!」と、モブリットはいつもの調子で声を張り上げる。
彼の言葉を耳にして佳奈子はつい眉根を寄せた。潔癖症とまではいかないが、風呂に入っていない人間が
今し方まで自分に引っ付いてきていたのかと考えると、あまり良い気分はしない。

ハンジは正に子どものように口を尖らした。

「ちょっとぐらい入ってなくたって平気だろー?あ、カナコもそんな顔するなって!」
「ちょっとぐらいってねぇ・・・」

顔を引きつらせたモブリットに、佳奈子は嫌な予感がした。

「あんたもう、一週間も入ってないんですよ!?」
「い、一週間・・・」

佳奈子は思わず苦笑いして後ずさる。そしてそう言われて見てみれば、ハンジの髪はいつも以上に
ベタついているし、気のせいか異臭もするような―――

けれど、当の本人は全くもって気に留めないようで。
眼鏡がずれるのもお構いなしに笑い飛ばした。

「あっはっはっは!たかが一週間、604800秒じゃあないか!」
「分隊長、充分過ぎます!・・・とにかく、午後から会議もあるんですから清潔にしてもらわないと、」
「え〜、会議って言ったってお偉いさんが参加するわけでもないし。構わないだろー?」

モブリットの束縛から脱出したハンジは、そんなしれっとした態度を取る。

「いえ。そうは言っても、リヴァイ兵士長が―――」
「あーあー聞こえなーい聞こえなーい」

ついにハンジは耳を塞いでモブリットに背を向けてしまった。

―――普段の素直さや一途な所、そして今のわがままを言って他人を困らす所。
ほんとに彼女は良い意味でも悪い意味でも子どもだなと佳奈子は改めて思った。
しかし、こうして一番迷惑を被っているモブリットが見放さないのは、
単に仕事だからではなく、やはり人望あってのことだろう。

恒例の板に付いた困り顔の彼と目が合う。―――佳奈子からもなんとか言ってやってくれ。
声に出さずとも、言いたいことが分かってしまった。

佳奈子としても、直属(仮)の上司であるハンジが不衛生なのは好ましくない。
この世界が世界だ。不衛生が元でどんな病気になるか予想が出来ない。

そしてなにより―――日頃彼女からスキンシップの嵐を受けている。
正直、一週間も風呂に入っていない不潔な人間に抱きつかれるのは御免被りたい。

「―――ハンジさん、」

佳奈子は静かにハンジの名を呼ぶ。
すると彼女は、依然手を耳に当てたままであるが、こちらに身体を向けた。
ベタついた髪に、指紋の付いた眼鏡、少し黄ばんだワイシャツ。
不潔な箇所を見つけてしまい、生理的嫌悪感が自ずと募ってしまう。

思わず立った腕の鳥肌を摩りながら、佳奈子は冷たい視線をハンジへやった。

「私、不潔な人は嫌いです」



2016.6.21